赤い少年
空が赤くなってきた頃、アキラは全ての仕事を終え帰路についていた。
普段、アキラは空が明るいうちに帰路につくことなんてできない。
運が悪ければ、そのまま城に泊まることもざらにあるのだ。
そんな彼が、こんな時間に帰路についているのには理由があった。
この頃、働き詰めでろくに休息を取っていなかったアキラを心配した上司が、休暇を与えたのである。
遡ること数時間前。
城に与えられた自室で、大量の書類を捌いていたアキラの元に、一人の青年が訪れた。
漆黒の髪に空色の瞳。
騎士服をきっちり着込んだ、彼の名前はシグルド・ラール。
アキラの剣術の師匠である。
久し振りに見たその姿に、アキラは作業を止めて顔を上げた。
「久し振りだな、シグルド。どうかしたのか?」
部屋に入ってきたシグルドは、アキラの問いかけなど無視して机の前に立つと眉間に眉を寄せる。
無視された本人であるアキラは、そんなこと気にしてないのか、目の前に立つ険しい表情の上司を、首を傾げながら眺めていた。
「・・・前に、休暇をとったのはいつだ?」
重苦しい沈黙を破ったのは、シグルドだった。
シグルドからの突然の問いかけに、戸惑いつつも思考をめぐらせるアキラ。
暫く考えても出てこなかったのか、アキラは机の引き出しから手帳を取り出した。
「ああ・・・。半年ほど前、だな。」
「馬鹿か、貴様は。」
「ッ!!」
答えた瞬間殴られたアキラ。
叩かれた所に手を当てながら、鬼のような形相を浮かべているシグルドを見上げる。
「イヴァンとルツが心配していたぞ。アキラが部屋から出てこないってな。」
「あの二人が?」
なぜ殴られたのかわからないといった表情のアキラに、シグルドはため息をついた。
自分の目の前に座る青年が、ここ一週間、部屋から出てこなくなったという報告を受けて来てみればこれだ。
自分に助けを求めてきた二人は、アキラが部屋で倒れているのではないかという心配をしていたみたいだが、それも時間の問題だっただろう。
実際、彼は部屋で倒れているのを何度も目撃されている。
お得意のポーカーフェイスで隠しているようではあるが、長い付き合いであるシグルドには、アキラが無理をしているのがわかっていた。
「お前、今日は帰れ。ついでに明日も休んで寝ていろ。」
「え!?いや、それは無理だ。やらなければならないことが、まだ大量にのこって―――」
「この山のような書類はイヴァンとルツにも手伝わせて、俺がやっておく。」
「そもそも、これはお前がする仕事じゃないだろうが」
そう続けられて、アキラはグッと言葉に詰まった。
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