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贈する想いは
【5555リク】それは貴方を思っての事。

果たして。


自分は。
こんなにも欲張りだったんだろうか?


はじめは。

何でも無い。
寧ろ好きでは無く苦手。


でも、優しく無い訳じゃ無くて。


敢えて。
態と。


人を寄せ付けないと気付いて。


興味が沸いて。


自分が人を寄せ付け無いとは違う。
種類の違う寄せ付け無い方法で。

笑顔で一線を画すのと。
そうでなく壁を築くのと。


方法、手段は違えど。


きっと。

踏み込むのも踏み込まれるのも。

怖いんだろうな、と、勝手に解釈をして。


それから。

少し気になった。


勝手な親近感。


口は悪いけど、決して悪口は言わない。

一歩間違えばそう取れる時も有るけれど。

それは素直の中に含まれる彼の気遣いだと。

死が近いからこその、割り切る術の為の憎まれ役。


だが。


はっきりとぶつけるその感情と。
きっちりと受け止めるその強さと。


その真っ直ぐさが羨ましくて。


いいな、と、思った。


もう少し話せないかな。
もう少し知りたいな。


もう少し、もう少し、もう少し。


彼に近付きたい気持ちが増えて行く。
彼に触れたい気持ちが溢れて行く。


それが好きなのかな?と、ふと、思って。

そんな自分に驚いて。

何だか少しだけ安心した。
僕はまだ人を好きになれるんだ、って。


「神田!」
先の角を曲がる姿を認めて小走りに追い掛けた。
何かが有る訳でも無いのに、何故か追い掛ける。
初めの頃とは違い、会話が出来る程にはなっていた。
だが、それは勝手に僕がそう思っているだけで。
周りからは口喧嘩だ、と、言われていた。
でも、それでも…、ね。
どうであれ自分を見てくれるのは嬉しかった。
それは僕とだけだったから。
限られた人と以外には、必要以外には話をしない彼が。
些細な、どうでも良いと取れる事で、声を荒げて僕と争う。
そんな小さな出来事が、自分だけであるのが。

とても嬉しかったんだ。

特別のようで。

だから…なのかな。

後を追ってしまったのは。


「何だ?モヤシ」
「アレンです!」
いつも通りの、定石たるやり取りから話を繋ぐ。
「何してるんですか?そろそろお昼ですよ?」
「別に。で?昼だから何だって言うんだ」
「お昼だから?ぇ、お昼ご飯、…でしょう?」
「…。子どもか」
「は?何?だってお腹が空くじゃ無いですか!」
「なら、食えば良いだろ。用が無いなら行く」
「あ!待っ、て…」
「何だよ」
「ぁの、です…ね、」
「早く言え」
「ご飯、一緒に…」
「嫌だね」
「ぅ…。あ!お蕎麦!おかわりしまくって空にしちゃいますよ?!」
「何だよ、それは」
「ぇと、ぁ…脅し!脅しです。食堂のお蕎麦完食しちゃいますからね」
「すれば」
「ぁ、や…駄目っ、神田!」
「、痛っ」
「ごめんっ!」
くる、と、背を向けた時に、ふわ、と、動いた長い髪。
思わず、で、手を伸ばして、その気は無かったけど。
割りと強めに引っ張る形となってしまった。
「バカモヤシ!」
「ごめん、…なさぃ」
小さく舌打ちをすると、留めて合った髪を解く。
流れ広がる髪に匂いが零れた。
「緩んだじゃ無ぇか。このバカ」
「ごめん。…でも、」
「何だよ」
「綺麗…」
一房、指を絡めると、滑らかな感触が気持ち良い。
「良いな、綺麗」
ごつり、と、拳骨を食らう事も無く何度も触る。
こめかみの辺りから五指を通して、下まで梳き切った。
「良いな…」
「気は済んだか。バカモヤシ」
「…ぁ、ぅん、…もう少し、」
「嫌だね」
意地悪く笑うと、再び髪を高い位置で束ねる。
「行くぞ」
「…はい」
「おい、行くぞ」
「はい?」
「行くんだろ?食堂!」
「ぇ、…あ、はいっ!行きます」
何が功を奏したのかは判らないが、一緒に居られるのが嬉しい。
先に歩き始めた後ろ姿を、先程のように追い掛けた。



「美味しいですか?お蕎麦って」
「…。食って無ぇのかよ」
「だって。美味しかったら困るじゃ無いですか」
「は?」
「だって。神田の分とか考えられなくて、無くなっちゃいますもん」
「食い尽くすの前提かよ」
「ぁ…」
「何だよ」
「いえ、ぇと…、あ、これ!これ食べますか?」
「要らね」
初めて、今、多分気のせいや願望による幻覚で無ければ。
小さく、今、多分本人も無意識にだったんだろう。
本当に微かに笑った、よね?間違い無く…多分。
折角のランチを駄目にしたくは無いから、黙っておく。
「食うか?」
「へ?」
「蕎麦。食うか?」
「くれる、の?」
「噛むなよ。喉越しと薫りを楽しむんだ」
「…あの、噛まないって、」
「啜…れ、無ぇか。お前は」
「…何で?」
「啜る文化圏じゃ無いから無理なんだよ」
蕎麦を盛った器の隅で、丸を描くように箸で纏める。
それを持ち上げ、涙型になる下の部分を、隣に置かれた液体に浸けた。
「おい。口を開けろ」
差し出された箸先に思わず口を開けると、蕎麦が入れられた。
「どうだ?」
「ぉい、し…で、す」
「そうか」
何事も無かったかのように食事を再開するが、僕にとっては吃驚で。
回りに座る幾人か、それを見た人も多分驚いている。
でも、僕の驚きと彼らの驚きは違うと思う、だって僕のは…。
「どうした?」
「…は?ぁ、いえ!美味しいですね」
止まったまの僕を訝しげに見たが、また箸で纏めて寄越した。
「ほら」
「ぇ…」
「口!これで最後だからな」
欲しくて見詰めていると思われたのか?と、ちょっと恥かしく思ったが。
雛鳥のように言われるままに受け取ると、黙って口を動かした。
「気に入ったんなら、ジェリーに頼んでおけ」
こくり、と、飲み込んで、はい、と、答えると、彼はまた笑った。
うん、見間違えじゃ無い、さっきのも間違い無い、絶対に。
「何だ?」
「…へ?あ、ぃえ!美味しいなぁって」
「そうか」
珍しく喧嘩にもならず、話しかけ返答をしてくれる神田。
「何か、…幸せですね」
ちら、と、視線はくれたけれど、それについての答えはくれなかった。
でも、僕が食べ終わるまで待って居てくれたのは、同意と取ってもいいかな?



「ね、神田。また一緒にご飯を食べてくれますか?」
食堂を出て居住区に戻る道をのんびりと一緒に歩く。
言い訳をして、少し大回りをして、神田との時間を、少し増やす。
窓から落ちる日差しが、陽だまりを等間隔に廊下に生み出していた。
「…お前。俺の事が嫌いだと思ってたが違うのか?」
「へ?何でですか?」
「何でも食うお前が蕎麦を食わ無ぇのは、俺が嫌いだからじゃ無ぇのか?」
「…ごめん。良く解らないんですか?」
「嫌いな奴の好物なんか食えるか、そう思っ…」
「違います!違う。だって僕は神田が好きなんですからっ」
「…は?…モヤ、シ?」
思わず、本当に思わず口から零れ落ちた言葉は驚きを生む。
自分の気持ちを神田に伝えてしまった事に。
アレンの意外な気持ちを聴いてしまった事に。
「っあ!えっと…ぇ…あ……」
きち、と、見詰めて来る強い視線の瞳に目が逸らせない。
血液が顔に流れる音がしそうな程に一瞬で顔に熱りが生まれた。
「お前…」
目が放せ無い、体が動かせ無い、言葉が出て来無い。
告白する気なんて微塵も無くて、ただ見ていられれば…な、そんな存在。
確かに欲は有ったけれど、どうこうしようなんて思っては無くて。
好きだけれど、想いに応えて欲しいとかそんな風では無くて。
「ごめ…な、…さぃ」
どうしよう、どうしたらいい、どうしたら、何も浮かばない。
「何故謝る?人を好きになるのは悪い事なのか?」
「……、ぁ、」
「このバカモヤシ。俺もお前が好きだからな。だから構うんだよ、鈍い奴」
「ぇ…、」
顔が近付いた、今度こそ見紛う事無き笑顔で、微かに…。

唇に触れた。

思わず目を瞑り、そして開けると、不敵に笑う彼の顔が。

「俺のはこう言う意味での好きだからな。覚えとけよ、モヤシ」

これ以上紅くならないと思っていた顔が、もっと紅くなるのが判る。
「あ!…神田っ」
立ち尽くす僕に背を向けると彼は歩き出していた。
その後ろ姿に何故か咄嗟に呼びかけてしまう。

「意味、良く考えて返事しろよ。バカモヤシ」

振り返り、いつもの彼らしい笑みを浮かべ、言葉を伝えて。
再び背を向け、顔の横で、ひら、と、手を振ると去って行った。



「からかわれ…た、のかな」

自らの頬を両手で挟み、その熱さに今の事実を再認識する。

「…キス。…した、よ…ね、」

右手が無意識に動き、指が唇を、つ、と、なぞり感覚が蘇る。

「本気…なのか、な」

混乱する頭と、どきどきとする心臓と、そして…擽ったい様な嬉しさと。

「どうし…よ、」

これは間違いなく恋だと、はっきりと自分の気持ちに気付いた。

だから、もう、その答えは決まっている、一つしか無いから。


でも…。


もう少しだけこの余韻に浸っていたい、もう少しだけ。

答えを求められる迄、この気持ちはまだ自分だけの秘密にしよう。


彼との、二人だけの、恋の秘密に為る迄は。

(終)

**********
【Request:告白。より】狩野様へ。
告白の内容等の指定がありませんでしたので、本当にベタな告白ネタです。
そう言えば砌のような始まりしか書いた事が無いな。
じゃあ、ちゃんと告白させてみよう、と。
リクエストありがとうございました。


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