贈する想いは
6:【13784リク】end.
それから夜は……、静かになった。
忘れないでと奴が残した言葉は。
一月(ヒトツキ)程過ぎて、元に戻った以前からの夜のように。
通常であった日常に紛れて、忘れてしまうと思っていた。
でも、奴が見せた一途な想いと表情とを合わせて。
それは中々消え去らずに燻りながら。
ふ……、と。
時に思い出されたりして。
奴が戻ったら、何食わぬ顔で。
自分たちの間には何もなかったのだと。
そう迎えてやろうと、捨ててやろうと、思っていたのに。
遊びで、退屈凌ぎで、それは一先ずの達成を果たし。
今や花は、育ち、手に入り、自分だけの為に咲き。
後は、終らせる為に手折ってさえしまえば。
一時(ヒトトキ)の戯れは、己を満たして。
日々に埋没して行き、やがて忘れ去られる筈であった。
それが……、今は自分を悩ませる。
ほんの気紛れに結んだ関係は、何の約束も持たぬ。
遊んでやっていただけだった、それだけだった。
自分ではそう思い、そのつもりで。
同性の手を握り、肩を抱き、騙す為にキスをしたのだ。
その結果、奴は俺だけを求めて、より欲して。
だから、あのような行為まで、予定外で、予定外に、あったのだ。
そんな気はなかった、その時はそう思っていた。
だが今は、……独りが寂しい。
あの、はにかんだ笑顔や、温もりが……欲しい。
二月(フタツキ)を過ぎて、三月(ミツキ)に入り。
その想いが段々と強くなって、自分が怖くなった。
忘れられるのが怖いと奴が言ったあの気持ちが。
解りそうで、そんなにも俺に入り込んで来ていたのかと。
いや、もしかしたら、気付かぬ内に自分が心を許していたのかと。
ごちゃごちゃとした感情が入り乱れて、息苦しくなって。
苛々と、制御できぬ気持ちや思考が降り積もる様に重なり連ね。
奴が戻って来た時には、その姿を目にした時には。
強くつよく、抱きしめていた。
小さく悲鳴が漏れる程に強く。
「アレンッ!!」
「ぅあ、……っ、……神、田、……」
耳に届いた、久しぶりに聞いた音は。
彼の訪問を告げるノック。
気のせいか、と、思ったが、直ぐに繰り返されたそれに。
扉を開けば、戸惑ったような奴が目に入り。
咄嗟に腕を伸ばし、引き寄せて、抱きしめていた。
「……遅ぇよ」
「神田?」
「アレン……、」
「どうしたんですか?」
ゆっくりと体を離し、その顔を食い入るように見詰める。
返される瞳に宿るは、嬉しそうなその光。
多分、……自分も同じだ、間違いなく。
ぐずぐずと渦巻いていた気持ちの悪さが。
こんなにも容易く払拭されてしまえば、もう疑う余地などはない。
「アレン、……よく聞けよ?」
「……は、はい」
「俺もお前が好きだ」
「ぇ、……」
「この数ヶ月でよく解った。お前が居ないのは嫌だ」
「……本当、に?」
「他所へ逃げんなよ。お前の居場所は俺の側だけだからな」
告白。
それは、俺からお前へ、今、正しく応じた事を。
気付いた想いを、変化した気持ちを口にして。
もう一度、確かめるように抱きしめながら。
二人だけの空間を作る為に、扉を閉じて。
好きだと言う心の扉を、奴だけに開けた。
「おかえり、アレン」
「ただいま、神田」
其々が其々の寛ぎの場となるように、その愛を新たに育てはじめた。
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【Request:『移ろい堕ちて-』のような鬼畜?恐ろしい?神田さんが、アレンさんに溺れていく様が見たいです!より】かめ吉様へ。
桜の季節から紫陽花の季節へ……と、移ろい過ぎております。
大変お待たせいたしました。
少しでもお気に召して頂けると良いのですが……。
リクエストありがとうございました!
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