贈する想いは
2:【13784リク】
それから。
こう……、と。
特筆する程に、事も、何も変わらぬ奴との日中(ヒナカ)。
それが少しだけ変わるのは……。
控え目な、ともすれば気のせいか?と。
小さなノック音が、奴が来た事を告げる。
「……何だ?」
細く扉を開けて、言葉を落とせば。
「……ぁ、……こんばん、は」
「またかよ」
「……ごめん、なさ……ぃ」
少しだけ大きく開いて、進路を開ける。
「……良い、の?」
「じゃあ、戻れよ。部屋に」
ぎゅ、と、シャツの裾が掴まれる。
「……お邪魔、します」
「手、……放せ」
背を向けて指先を払い落とすと、続く靴音。
かち、と、閉まるドアの前には奴が佇んで。
俺はベッドを軋ませ腰を下ろし、脚に左手で頬杖を。
「で?何か用なのか?また挨拶か?」
「……用、と、言うか……ぁの、」
「お前は何がしたいんだ?」
「……ぇ?」
「毎晩、毎晩。居る時は必ず来るが、」
「迷惑……です、か?」
「聞け。ただ、顔が見たいとか、声が聞きたいとか、」
じつ、と、奴の顔を見ながら続ける。
こんなにゆっくりと、奴を見たのは初めてか。
「おやすみ、そう言うだけか?満足してんのか?」
「……それ、は……、」
「お前の告白の意図は?」
「……意図?」
「何の為に告白をしたんだ?こっそり挨拶を交わす為か?」
「……好き、だから。気持ちを、」
「その先を聞いている。この現状が楽しいのか?」
「……」
夜になると抜け出して。
夜になると訪れて。
夜になるとお休みだけを告げて。
夜に奴が、部屋に奴が。
他に何をするでも、言うでもなく。
照れか恥ずかしさか、どうなのか。
あの日から続く、この挨拶だけの行為に。
付き合うのもそろそろ飽きてきた。
仕掛けてくれれば、あざとくからかうのに。
仕掛けてくれば、焦らして切り捨てるのに。
仕掛けるも何も、初な処女でも有るまいし。
いい加減、何もない事に我慢するのも飽きてきた。
遊べない玩具は……、要らない。
「……ぁの、」
「お前と居ても、面白くも何ともないんだが?」
「それ、は……」
ひとつ、大きく溜め息を溢せば。
身を竦める、泣きそうな奴。
「誰も知らないお前を、見られるかと思っていた」
「……」
「恋人気取りな言葉や態度を嘲笑(ワラ)ってやろうと、」
「ぇ……」
「俺に媚びる様でも楽しんでやろうと思ってたが、」
「か……ん、だ?」
「暇潰しにも、馬鹿にするネタにもならねぇし、」
「……」
「ここ一ヶ月くらいか。本当に時間を無駄にしたな」
じわ、と、目の縁に溜まる水滴が。
きら、と、灯りを照らし返す。
「これが本音だ。で?どうすんだよ、モヤシ」
「……」
「それでもまだ、俺が好きと言えるのか?」
こくり、と、頷いて、ぽとり、と、水が落ちた。
「はっ、……馬鹿か?お前。言ってる意味が解んねぇのかよ」
「だって、だって……好き、好きなんだもん。……諦める、なんて……」
「真面目に付き合うつもりなんて、はじめからなかったんだよ」
「……」
「今、好き嫌いの二択から選ぶなら……、」
「……かん、」
「嫌い、だ」
「……、か 」
「日頃気に食わねぇお前で、遊ぼうとしたんだよ」
「かん、だ……、」
「解ったんなら帰れ」
「ぁ、……嫌、嫌……、だ」
「嫌じゃねぇよ。もういいだろぅが」
「……、嘘でも良い……から、だから、……側に、」
「は?」
「側に、居たい……、神田の、側に……」
「……お前は馬鹿か?人の話を理解してねぇのかよ」
「して、る……でも、……好き」
「……気持ち悪ぃ奴」
「神田……が、好き。嫌われてても……好き、」
「俺は好きじゃねぇ」
「……どうしたら、側に……居れ、る……の?」
「は?」
「……どんな形でも、側に……居たい、よ。神田……」
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