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連綿たる経常
触れて。

無防備だなぁ……。


人には、「お前は無防備過ぎだ」等言うくせに。


ざわつく食堂で、肘をついて頬杖を。
こと、と、傾けた頭に閉じられた瞼。


食べ終わった食器もそのままに、休憩のつもりだったのか。


そのまま動かない、……寝てる。


もぐもぐと口を動かしながら、斜め前のテーブルをちら見して。

他の人に寝顔を晒さないで欲しいな、と。

そう思いながらも、眺めながらの食事も好いな、なんて。

自分が来た時には既にこの体勢で。

ふと、何時から寝ているのか?と、気になった。

普段はさらさらと揺れる髪が、しとり、と、湿り気を帯びていて。

稽古の後か、シャワーか、何か、水分を含む色合いを示して。

寒くないのかな?と、暑い日の増えた最近ではあるが。

今日は、曇天と小雨を繰り返す、ほんのりと肌寒い日で。

シャツから覗く鎖骨が、何だが寒々しくしく見えた。



誰も起こさない。
誰も何もしない。



日頃の神田が神田なので、まぁ……、仕方がない、とは思うが。

自分がどちらかを、出来れば良いのだけれど。

それをするには不自然な仲、装う不仲な関係性。


「…………」


かた、と、スプーンを置いて、皿の中のグラタンと睨めっこを。


直ぐ出来る事。
直ぐやれる事。


でも。


声を掛ける事も。
羽織らせる事も。


見るだけしか。

……寂しい。


それが。

……悲しい。


かつ!と、小さいけれど鋭い音に。

ふ、と、目線を上げて、その方を追えば。

箸の頭をひとつ、机に付けた神田が目を開けていて。


口が動く。
声は無い。
読み取る。


『(どうした?)』
「ぇ、……」


見ていたつもりが。
見られていたのだ。


つ、と、ほんの少し、本当に少しだけ表情を緩めて。

自分だけが解る、口角が上がる仕種で笑むと。


『(泣きそうな顔してんじゃねぇよ)』


口を開き掛けて、あ!と、気付きそっと動かす、無音で。


『(寝てなかったの?)』
『(お前の顔を堪能してた)』


頬が瞬時に熱くなるのが判った。


『(馬鹿!)』


心配したのに。
騙された。

でも、何故か。
嬉しくて。


感情を隠す為に、拗ねた態度を示すと、楽し気に笑われた。

勿論それは、自分だけが解るくらいの微笑み方で。

スプーンで再び、少し冷めた料理を口にする。

パンをちぎり、肉を咀嚼し、飲み物を含み。

食べる事だけに集中するも、気になる。

態とらしい、感じるように投げられる視線が。


『(……何?)』
『(お前は解りやすい)』
『(何がです?)』
『(ありがとうな、アレン)』
「あ、……」


かたり、と、椅子を鳴らすと、神田が視界から消えた。


最後に、

『優しいな、お前は』

と、残して。


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あきゅろす。
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