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連綿たる経常
受け入れて、そのままに。

別に。

そう思っていた。

だが、違った。



思ったよりも。



それが嫉妬だと気付いて。

驚くと共に嫌な奴だと思った。

自分が。



初めはサシでの予定…だと思っていた。

「何だ?アレン」
「ね、神田。今日はお昼を食べに出ませんか?外へ」

久しぶりの休みが重なり了承した。

この時は何とも思って無かった。



当日、今。

気付けば。

ひとり、ふたり…と、人が増えていて。

奴らしいと言えば奴らしいのだが。

ふたりでの予定が崩れた事に苛立った。

そんな自分に戸惑った。

昼が近付くにつれ。

出掛ける時間が迫るにつれ。

行きたくなくなり。

何気に自分が。

ランチを楽しみにしていたと解った。

そして、何とも言えない。

腑に落ちないような気分。

何が気に食わないのか、と。

それが嫉妬だと気付いた。

まさか自分がこんな些細な事で。

気分を害しているとは。

独占欲。

ふたりの時間を。

大切な奴を。

自分を優先に。

そんな醜い嫉妬。



知らなかった感情への違和感。



ベッドに腰掛けたまま、思わず溜め息が盛れた。

髪を結わいた紐を解くと頭を両手でかき混ぜて。

そのまま俯いて肘を膝に乗せると。

もうひとつ溜め息が出た。

「めんどくせ…」

小さく零れ落ちる不満。

自分に、奴に、皆に。

半身を起こすと、そのまま横向きに倒れ込んだ。

枕から微かに香りが。

朝までそれは奴が使っていて。

そのまま顔を埋めるように突っ伏した。










時間か、ドアがノックされ聞こえる声。

「神田?」

好きな奴の声、でも、名は皆と居る時の呼び方。

何と無く返したくなくて黙(ダンマ)りと。


「アレンくん、ラビ。神田居た?」
「お、リナリー。他には居なかったさ」

「あの、…神田?居ないんですか?」

「居ないみたいさね。どうする?アレン」
「アレンくん、神田と約束したのよね?」

「…はぃ、」

「約束を破るタイプじゃ無いんだけど…」
「何気に律儀さね、ユウは」

「どうする?アレンくん」
「アレン、どうするさ?」

「……ん、」

「そうねぇ…、またにする?アレンくん」
「皆が揃って仕切り直せば良いさ」

「……ん、でも、」

「アレンの誘いに乗ったのは気のせいだったとか」
「犬猿の仲だものね」
「そんな事!だって…約束、しました」
「ごめん、そんな顔すんな。も、一回探すさ!な?」
「そうね。もう一度探しましょ」


遠ざかる足音に消える声。

子どもっぽい自分のせいで。

余計な労力を皆に強いる。

それもまた…、腹立たしい。

肺の中の空気を入れ換えて起き上がると。



「何してやがる」

「それはこっちの台詞です」


扉の前には案の定、靴音のしなかった奴がひとり。

「ユウ。ね、なぁに?」
「何が」
「怒ってるでしょ」
「別に」
「それに。……頭」
「は?」
「寝てたの?具合悪い?」

腕を伸ばして額に触れる手に心地好さと。

やはり苛立ち。

「何でもねぇ。悪ぃがキャンセルだ」

その手を退けるとそう告げる。

鈍い奴と、構ってちゃんのような自身に。

区切りを着けたくて。
苛立ちを抑えたくて。

頭を冷やそうと。
時間を措こうと。

「…迷惑、だった?」
「いや、…」

「じゃあ、やっぱり具合が悪いの?」
「違う」

見上げてくる視線に。
見詰めてくる双眸に。

はぁ…、と、大きく呼気を溢す。

「降参だ」

「……理由、聴いて…も?」

「……」

「ユウ?」


「お前と…、…りが…かっ…、だ」


気恥ずかしくてはっきりとは言えなかったが。

ぱちくりと。

不思議そうな表情を浮かべて瞬きをする顔を。

失礼だな…、と、思いつつ見遣る。


「何だよ…。悪ぃか」

「………」

「アレン?おぃ…わっ、ばっ…」


不意討ちな抱擁に、支えたが支えきれず。

引き開けていた戸と共に、内側に倒れ込んだ。

「っ、…この馬鹿!」

「…」

「おい、大丈夫か?」

「嬉し。ユウの本心が聴けて嬉しい…です」

「馬鹿…」


「今度は…、二人で行きましょう。絶対に」


にっこりと上に乗ったまま微笑む顔に。

本当に嬉しそうなその笑顔で。

悪い気なんてする筈も無く。

苛立ちは嘘の様に消え去った。


単純、でも…、それでも良いのか。


「ユウの気持ちが聴けて良かった」
「…らしくない、か?」
「ぅうん、伝えてくれてありがとう」
「ん、…」
「ね、これからも教えてね。ユウの気持ちを」
「あぁ、解った。…おい、」


視界の端に戻る奴等を捉えて言いかけるも。

終わるよりもより早く、とても目敏く。

瞳を輝かせながらダッシュで。

「何してるんさ、二人共!」

その後ろからもうひとりが。

「大丈夫?神田、アレンくん」


「…ぁ、」
「何眺めてやがる」


仰向けの神田に重なる形に俯せのアレン。


「へー。押し倒して捕まえたんさ?アレン」

アレンの両脇に手を入れてラビが抱え起こす。

「す、すみませんっ」
「俺じゃ無くユウに謝るさ」

「ぁ、ごめんなさい、神田」


体を起こした神田に手を差し伸べる。

隣からラビも手を出して同じ姿勢で。

「いらねぇよ」

それを無下にすると床に手を付いて立ち上がる。

リナリーがその背を叩(ハタ)きながら口にした。

「素直じゃ無いんだから。ありがとうって言ったら?」

「ユウ、頭どうしたんさ?そんな激しくタックルされたさ?」

「……」

「そんなに神田とご飯を食べたかったのね。意外だわ」

「ぇ、…あの、」

「必死過ぎさぁ、アレン」
「でも、いつも真剣なのがアレンくんの良い所よ」
「ま、そうさね。さ、揃って飯るさ!」
「そうね、行きましょうか。アレンくん、神田も」


一足先に歩き出す二人の背を眺めながら。

「ね、ドア閉めちゃえば良かったですね」
「酷ぇ奴」

小さくちいさく囁き交わす会話は雑音に紛れて。

ふたりだけの耳に届くその内緒話。

扉を閉じて施錠をすると嫌な己にも鍵を掛けた。

意地っ張りな自身に。

少しだけ素直な自分を見せてみようと。

「おら、行くぞ」

「えー、俺達ユウを待ってたんさ!」
「そうですよ!ねぇ、リナリー」
「まぁ、良いじゃない?許してあげましょうよ」

「別にお前等に許される謂れはねぇよ」

「可愛くないわね、神田」
「ユウが可愛くないさ〜」

「そうですか?僕は可愛いと思いますけど」

「何だと、モヤシっ!」
「アレンですぅ、バ神田!」


他愛無い言葉をぶつけつつ遅めの昼へと出掛けた。

そこに在るのは新たなる自分。

そして、今は居心地良く感じる空気だった。


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あきゅろす。
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