[携帯モード] [URL送信]

-混沌たる現と幻-
そばに。[ライルとティエリア]
くぅっ、と、肺の奥まで充たすように、空気と共に深く吸い込む。
少し止めて、ふぅっ、と、胸に燻る苛立ちと撹拌した煙を吐き出す。
何度か吸っては吐いてを繰り返して行く。
身を削り短くなる煙草の分、少しだけ気持ちが落ち着く気がした。
一本目を揉み消し、またジッポから炎を受け取る。
一度大きく吸い込むと、吐き切るように肺から押し出す。
後は軽くくわえたまま、消えない程度に煙を生み出して行く。
『吸う気が無いなら消してはどうだ?もしくは止めた方がいい』
『…ティエリア』
机に頬杖をついたまま視線だけを動かし、その名前をぼんやりと呼んだ。
『どうした?ロックオン』
正面に座ると、手にしたカップを一つ押し出す。
『何?くれんの?』
『嫌なら置いておけ』
煙草に珈琲の香が絡む。
『サンキュ』
ぎう、と、煙草を押し消すと、鼻先に珈琲の湯気と香を楽しむ。
『これも落ち着くな…』
両手でカップを包み込んで、その温もりにも癒される。
前に座ったティエリアは、何も言う事無くそれを口に運ぶ。
そこに満ちる珈琲の香と、流れはじめる穏やかな時間。
ゆぅるり、と、互いにそれを楽しむように、何も言わずに口にして行く。
満足の吐息を吐き出す頃には、ささくれ立った心は穏やかに為っていた。
『ありがとうな、ティエリア』
『俺は何もしていない』
『素直じゃ無いねぇ』
いつものように肩を竦める仕種をすると、ロックオンはティエリアに微笑んだ。
何をするで無くとも、側に居てくれる事の安らぎ。
近付き過ぎない距離と、優し過ぎない優しさにロックオンは感謝した。

[*前へ][次へ#]

20/26ページ

[戻る]


第3回BLove小説漫画コンテスト開催中
無料HPエムペ!