-混沌たる現と幻-
温もりを。[ティエリアと刹那]
抱きしめて欲しい時に抱きしめて欲しい。
普段はそんな事は求めない、
求めてない。
自分の領域に踏み込まれるのも、
相手の領域に踏み込むのも、
どちらも怖い。
どちらも苦手。
でも、抱きしめて欲しい時がある。
無性に誰かに、
いや、側に居る人に、
現状を知り得る人に、
どうしても抱きしめて欲しい時が。
温もりが欲しいのか。
気持ちが欲しいのか。
優しくされたいのか。
共感をされたいのか。
わからない。
『刹那、どうした?』
心地の好い、あの頃と変わらぬ声音で呼ばれる。
現実に引き戻される。
『…ティエリア、いや』
ふ、と、通り過ぎずに近付いて来た。
『何だ?』
見上げていた彼と今は同じくらい。
近付いた彼が、す、と、梳くような手つきで髪を掠った。
二度、三度…と。
撫でていると気付いた。
『ティエリア?』
きゅう、と、ハグのように軽い束縛。
『大丈夫だ、刹那』
抱きしめてくれたその体を抱きしめ返す。
『…あぁ』
見透かすのも、見透かされるのも、
その情愛が、その距離感が、
やる瀬ない寂しさを埋めて行った。
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