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其々の砌にて
前編。

何か思案している風ではあったが、そう見せ掛けて…な、時も多々あるので何か言って来る迄は放置プレイにする事にした。
これは最近学んだ事で、少し前までは何かしたか?とか、心配事でも?と、今までの自分では有り得ない感情に、人付合いの難しさを感じたりしたのだが、面倒に為って気にするのを止めた。
俺がどんな人物か判った上で、付き合いを始めたのだから…が、そうは言っても心変わりしないか?なんて考える自分も居たりするのだが。
朝、任務が早目に終わったとかで、機嫌良く部屋を訪れてからずっと居座っているので、今日はそんな心配は要らないだろう。
一人用の寝具に二人は狭いが、部屋も一人用であるから、どちらにしても窮屈なのは仕方が無い。
寝そべる事にも飽きて体を起こすと、そろそろ昼飯に出ようと身支度を整える。
二人は仲が悪い、と、思われているのを好都合に、時間帯をずらして食事を取るのが暗黙のルールとなっていた。
「神田、どこに行くんです?」
「飯。少し眠れ、アレン。寝て無いんだろ?」
髪を乱したまま体を起こし、足を崩して怠そうにその場に座り込むと、欠伸を噛み殺しつつ、疲れて眠そうな声で尋ねて来た。
「ね、食べないんですか?」
「は?だから今か…っ、ばっ…!」
振り返るような姿勢で会話をした為、突然に腕を引かれれば体勢を崩すのは明白で、座るアレンの上に倒れ込んだ。
その体を胸に収めると、後ろから抱きしめて肩に顔を乗せたままに、耳朶を甘噛みしもう一度告げられた。
「ね、食べないの?」
「…折角休ませてやろうと思ったのに。馬鹿だろ?」
「うん。…見下ろすキスもいいかも」
「言ってろ」
顔を近付けて来るその頭に手を伸ばし、ゆっくりと自分の方に引き寄せながら、少しだけ上を向く。
いつもとは微かに違う、唇の押し付けられる柔らかな感触を堪能するように、触れるだけの静かなゆったりとした長いキス。
そっと、寄せた頭を離す仕種で口付けの終りを告げると、最後に少しだけ離しながらも、もう一度重ねるように唇を合わせて離した。
「…」
「何だ?」
頭に置いたままの手で、アレンの髪を梳いてやり、体を起こそうとした所を抱きしめられて邪魔をされる。
習慣とは恐ろしいもので、何の躊躇いも無く突然にされるキスにも瞼を閉じて受け止めると唇に舌が触れた。
少し口を開けてされるがままにしてやると、怯えた様子が判る程におずおずと侵入する。
わざとその舌に歯を立ててからかうと、慌てて口と舌が離れた。
「アレン、何だ?」
顔を紅くしたまま、じつ、と、見詰めて物言いたげな顔が可愛くて、整えてやった髪をくしゃりと撫でた。
「言えよ」
「…あ、あの、…した、い」
言いながらも赤さが段々と増して行くが、視線を合わせたままに最後まで言い切った。
終りの方は小さくて囁く程の声になっていたが。
「何をしたいんだ?」
解ってはいるが、普段受け入れる事はあってもなかなか聞けない恋人のおねだりに、笑いを堪えて意地悪く尋ねると、泣きそうな困ったような顔に変わって行く。
「アレン?」
一度口を開きかけるが、引き結ぶように口を閉じてしまう。
耳までも赤くして悩むその表情が可愛くて、顔を見詰めたまま、急かさずにその顔を黙って眺める。
「…かん…だ」
「何だ?」
「神田が欲しいっ」
一息に言い切ると、抱きしめている神田の胸の上に倒れ込むように額を擦り付けた。
抱きしめた腕の下で小さく彼の肩が揺れているのはきっと笑っているのだろう。
改めて恥ずかしさが込み上げて来るが、問われて黙っていては貰えないのは解っているから。
優しく髪が撫でられ、何度か軽く頭を押さえられた。
「アレン。…苦しい」
「ごめんなさいっ」
慌てて体を起こして顔を覗き込むと、にやり、と、微笑まれる。
「素直だな」
体を起こして向かい合えるように寝具の縁に座り直すと、下から押し上げるように軽くキスを与えた。
「どうしたいんだ?」
「あ…、え、と…」
少し収りつつあった頬の赤みがまた戻って来る。
顔を付き合わせて抱いてくれだなんて、しかもどうして欲しいだなんて、嬉しいけれど、どうしようと今更ながらに困ってしまう。
「アレン?」
「…」
「お前は可愛いな」
前髪を撫で上げると、額に、鼻先に、頬にと触れるだけのキスを贈る。
「ふ、赤過ぎ」
「だって…」
肩に顔を押し付けると、くつくつと笑いながら頭を撫でられ抱きしめられた。
「本当に可愛いいよ、アレンは」
「…ば神田」
「あぁ。お前に馬鹿みたいに惚れてるからな」
「ばか」


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