其々の砌にて
花。
段々と自身を主張する膨らみを、意地悪くポイントをずらして刺激し、的確に快感を呼ぶ位置を攻め、一気に射精感が高められて行く。
「…っ、はぁ、かん…だぁ…」
「何だ、言ってみろ」
吐息は甘いものに完全に変わり、もう何も、考える事より何よりも、その先にある享楽が欲しかった。
「ん…あ、…かん、だ…、もぅ……っ」
「早く言え、何だ」
間違いなく自分が訴えたい事が解っている筈なのに、冷たく言い放つ神田の態度に悲しくなるが、体はもう我慢がきかない。
この熱を吐き出して楽になりたい、その快感を求めるばかりで、意識せずともより吐精を求めるように、触られる手に押し付けるように、擦りつけるように腰を動かしてしまう。
「何だ？それに動くなと言った筈だが」
ぎぅ、と、全体を強く握り込まれ、びくりと体が引けてしまうのを、神田の腕が腰を引いてそれを許さない。
「動くな。従ってろ」
「っん……は…ぃ、かん…だぁ……」
「いい子だ。さぁ、アレン、お前はどうしたいんだ？言えよ」
そう言いながら、腰を思わず振るような気持ちの好い場所ばかりを刺激され、伝えたい事が言葉にならない。
「アレン？」
湿り気を帯びて来る下着に擦れる不快感と、加わる快感と、達したい思いと、思考が絡まり苦しさが増えて行く。
「…も、ぅ……むり…あぁ、…っは…ん……」
「出させてやろうか？」
こくこく、と頷くと、体を支えていた腕と、快楽を齎していた手が外され、そのまま床に座り込んでしまった。
「…動くな、と、言ったよな？」
「…はぃ」
「罰だ。自分で達してみせろ」
「……それ、は…」
「やれ」
冷たく見下ろす神田を見上げると、腕組みをした彼は憮然とした表情で黙って視線を返してくるだけ。
「直接触れるなよ。着たまま達しろ」
「かん、だ…」
「早くしろ」
荒く熱い息を吐きながら、ゆるゆると腕を伸ばし自身に触れると、快楽点を刺激しようてするが、ズボンと下着が邪魔をする。
普段自分でするのであれば、直接的に触り適度な刺激で早々に処理をし、その目的以外の手順なんて求め無いのだから。
神田の手の動きを真似てみるが、焦（ｼﾞ）れる中の気持ち好さも、直接的な快感も、上手く生み出せないばかりか少しの快楽さえも拾う事が出来ない。
「ん、…っ、…はぁ、…ぁ、……」
神田に見られている事を気にかける余裕も無く、手を動かし達しようともがくが、吐き出す事も戻る事も出来ずに体の内側に熱が篭って行く。
「…かん、だ…ぁ……む、りぃ……さわ…っ、てぇ……」
「出して触るのを許可してやる。やれ」
「や、だぁ…、かん、だ…が、いぃ…、かんだ……」
「従うか？」
「うん…、したが…う、…からぁ…」
「逆らうなよ。俺だけを見ろ、従え。出来るか？」
「…お、ねがぃ…、たべ…て……、いうこ、と…きく、か…らぁ……」
腋の下に手を入れて壁に寄り掛かるように立たされ、片膝をついた神田がその前に跪き再び腰を支えた。
「肩は貸してやる。だが立ってろ」
快楽の中でも自分に従順に従い、命令を聞き分け、尽くそうとする意志があるのか、その素質があるのかを見極めるように神田は言い放つ。
”喰う”と言う事を覚えていて、無意識かもしれないがこの状況で持ち出して来る事が出来ているならば、自分だけを必要とする、可愛い、そして厭らしい玩具になるかもしれない。
しかも、欲しいと思っていた相手が、策を労さずとも向こうから落ちて来たのだから、神田としてはこの好機を逃さずに、確認をしておきたかったのだ。
限界に近い体を持ってして自分の命に指示に意志に応えるか、その努力や素直さを保ち見せるかを。
壁に背を預け握り締められぬ壁に爪を立て堪える様子を見ながら、ゆっくりと確実に先程の行為の中から見出だしたポイントを攻めて行く。
「…は、んっ……う……」
「声は我慢するな」
「はぃ、…でも、はずか…しぃ……あぅ、」
「立ってろよ、動くな。いいな？」
「う、ん…ぁ、……」
ベルトに手をかけて緩め、ズボンと下着を一緒にゆっくりと引き下ろして行くと、我慢できないと飛びつくように眼前にそれは姿を現した。
「やぁ…ん、かん、だっ……だめぇ…」
ぎり、と、壁に爪を立て、恥ずかしさと、これからされる事に対する期待か恐怖か、朱に染まる頬に蕩けたような瞳で見下ろして来るが、手で隠したりせず”動くな”の指示を守っていた。
「爪が痛む。俺の肩か背中を掴め」
「…は、ぃ。でも…」
「従え」
「…おも、い……し、…」
快楽を感じていてもこちらの心配をして来るとは。
それは僅かかもしれないが、何かしらの思考をする余地が有る様では駄目だ。
何も考えられない位の快楽に落ちなければ、落とさなければ、自分だけを見て、自分だけに焦がれるようにする為には。
絶好の獲物で、折角のはじめてなのだから。
「俺の指示に従えばいい。他に気をとられるな」
「…はぃ」
まだ負担を気にしてか、両肩に恐る恐るという感じに乗せられる手が、まだ僅かに震えていた。
「俺だけを感じろ、逆らうな」
返事を待たずにその先端を口に含み強く吸いつつ、歯で軽く刺激をしてやれば、びくびくと反応を返し、より太さを増して行く。
「ひぁ、…や、よごれ、て…る、からぁ……だめぇ…、んぁ、あ……っ」
肩に乗せた手は背中を掴み、震えは背中、足へと全身に及び、言い付けを守ろうと力の入らぬ事に堪え、初めて感じる口に含まれる快感に耐え、苦痛と喜びとが鬩ぎ合うが、そのどちらもが快感に変わる事をまだ知らない。
「や、ぁ…んっ、あぁ…はぁんっ…」
半分までを含み、舌を出し入れするように擦り、片腕で腰を支えたまま、もう片方で根本の袋を揉み込むように刺激して行く。
先端から溢れる汁が増えて行き、口内の唾液と混じり、独特の臭いと水音が辺りに流れる。
頬の粘膜で擦るように少し斜めに銜えると、甘噛みと擦る刺激により硬さを高め、零れる唾液の熱さがより高ぶりを与えた。
「も、だめぇ…っ、はぅ…ん、…かん、だぁ……ひぁ、んぅ……」
口の中と手に返る反応と、声に滲む声音の甘さを見極めつつ、より的確に攻め続け促して行く。
自らの手淫により間が空いた分、直接的で感じた事の無いぬめりや温かさ、柔らかさや擽られる感触が再び強く追い詰めて来る。
吸われたままに喉の奥に導かれ擦られると、舌や指とは違う滑らかで固い感覚に、自ら擦りつけて出し入れをしたい衝動に駆られる事に戸惑いつつも揺らめいてしまう。
でも”動くな”と言われた事を守りたい、嫌われたくない、意識と無意識とが絡まって行く。
「ぁ、ひぁ、や…ん、あぁ、……も、…でちゃ、うぅ…はな、し…やぁああ…」
逃さぬように強く抱きしめるように、腰を抱き込まれ、出したいが出したくない状況の働かぬ思考の中堪えようにも出来る筈も無く達してしまう。
「…やぁ…っ、は…、ぅ……」
背中に倒れ込むように荒く息をし、辛うじて体を支えようとするが、力が入ら無い事は判っている。
ゆっくりと抱き下ろすと、夢現な瞳で見詰めて来る顔を眺め、そのまま口を開けて呼吸をする唇にキスを落とす。
びくり、と、体が跳ねるのをやんわりと抱き留め、口移しに精液を流し込んだ。
「飲め」
初めてでは無理か…、だがこれで飲み込めば、逆らう事無くこれからも自分のモノになるだろう。
戸惑いと動揺と羞恥とが入り交じった瞳に、怯えて色香が混じり艶を増した表情が堪らなく妖艶だった。
「…ぅ、…ん…っ……」
ごくり、と、喉が動くと、苦しそうな吐息とは逆にゆっくりとだが飲み込んで行くのが判った。
乱れた髪を撫でてやりながら、舌を出させ確実に飲み込んだかを確認すると、優しく額にキスを贈る。
「可愛いよ、アレン。これからが楽しみだ」
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（終）
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