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其々の砌にて
月。

そう言って詰められた間合いに思わず目を瞑り、顎を引いてしまうその横に神田の顔が寄せられ、耳朶に吐息が触れると囁く声が耳に届く。
「何?期待したのかよ。アレン」
かぁっ、と、血液が上昇するのが自分でもよく判る程に体が熱くなる。
「なぁ、アレン。喰わせてくれるんだろ?」
耳に唇を微かに触れさせ、わざと落としたトーンの声色で、楽しげに意地悪く、そして甘くその声が脳内に響く。
「か…ん、だ…、本、気で…」
「あぁ、お前が喰いたい。喰わせろよ、アレン」
引いた顎をもう一度引き上げられるが、閉じた瞳を開ける事が出来無い。
視覚を使わず聴力だけに頼る事が、より一層その感覚を鋭敏にし、過敏に捉え反応する事を知ったのは、後に神田に教えられた事だが、今の僕はそれに気付く事は無かった。
「可愛いよ、お前。なぁ、アレン」
腰を抱かれたと確認するまでも無く、片腕が絡まる感触が体に伝わると、唇にも何かが当たり、上下の隙間にすぅっと這う感触が生まれた。
「んぅ…っ」
驚き目を開けたが訪れたのは暗闇で、それは神田の手で覆われているからだと気付いても、自由である腕を動かし払う事もせずに立ち尽してしまう。
柔らかく唇に当て触られ、何度か角度を変えて軽く、軽く繰り返された。
「アレン。なぁ、喰わせるんだよな?」
「…は、……い」
こくり、と、小さく頷き神田の言葉を肯定するをするが、未だ信じられずに動けずにいる。
「いい子だ」
唇が合わさるとそのままに舌で唇を舐められ、唇が離れてもべたり、と、合わさるように舐め続けられる。
呼吸のタイミングが掴めずに、息苦しさから口を開けると、少しだけ舌が入れられ、上唇を舌がなぞり、触れ合った下唇の柔らかさが、やたらとリアルに感じられ、益々息が苦しくなった。
呼吸の苦しさや怖さから逃れる為か、背後の壁に爪を立てたらしく、引っ掻く感触と音がキスの間に混じると、ふっ、と、息が楽になる。
「ふ…は、ぁ……」
「お前…、初めてかよ」
「…そ、ぅ…、です、けど…」
目隠しをされていても間違いなく、声を出さずに神田が笑ったのが判った。
気配が動き再び耳に唇が触れると、吐息のような声と、先程は無かった熱も伝えて来た。
「可愛いよ、アレン」
「かん、だ?」
楽しげに笑う声がすると、目元に明かりが戻り、体が自由になる。
翳んだ視界がはっきりとした画像を結び、未だ笑みを零す神田が映った。
「誰にも抱かれた事は無いんだな?」
唐突な言葉に一瞬理解出来ずに瞬きをしたが、苛立ち、促すような神田の表情を見て取り慌てて頷いた。
値踏みするように上から下まで眺められる事に居心地の悪さを感じるが、どうする事も出来ずに壁に寄り添ったまま、その視線に堪えるしかない。
「脱げ」
「え…」
「脱げよ」
「…」
「脱がされたいのか?」
確かに好きだと思ってはいたが、それが情愛の感情で、好きではあるけれど、自分が男性を好きになるとも思ってもいなかった。
それにその想いがが叶う事が、自分以外の誰かに知られる事は無いと思っていたし、それが見透かされただけでは無く、いきなりのキスに脱げと言う言葉。
自分の感情と、命ぜられる言葉と、現状の認識と、頭と気持ちの処理が追い付いて行かない。
「アレン、脱げ」
声の苛立ちに追われるように腕が上がり、団服の釦に指をかけるが、緊張からか上手く外す事が出来ない。
何度か試みるが、いつものようにならないばかりか、手が震えているのが判った。
ちっ、と、舌打ちが聞こえると、神田の手が重なるように団服の釦を外し前を寛げ、中に着ていたシャツのリボンタイを解くと、乱暴にズボンから裾を引き出しながら最後の釦までが外される。
さわり、と、神田の手が首に伸び、首筋、鎖骨、胸、と、なぞるように這わさせる感触に、何度か小さく体が揺らいだ。
「感度は悪くなさそうだな。動くなよ」
両肩を捕まれると、耳の付け根に神田の唇が押し当てられると、小さな痛みが生まれる。
「ん…ぅ」
「動くな。声は出していい」
再度同じ場所にキスをされ、舌を首筋に沿わせ鎖骨の窪みまで舐め、反対側も同じようにされる。
その窪みから鎖骨をなぞり外側に向けて舌で舐められるが、時折唇が触れる感触に擽ったさが混じる。
肩の終りが近付くと衣服がずらされ、その端に強く吸い付き、やはり反対側も同じようにされ、もう片方の肩口にキスを貰う頃には、上着は完全に床に落とされていた。
肩から胸に行為が移り、小さな突起を見せ付けるように舐められ、口に含まれると、吸われたり歯を甘く当てられ、もう片方は指で押し潰し、摘み、指でゆるゆると撫でられる。
「あ、…っ…」
ちゅう、と、ぴちゃり、と、音が耳に入る度に、指での触れるか触れぬかの柔らかな刺激や、かり、と、爪で掻く感触、時折空いた手で体を、胸を、脇を、腹を、撫でられる感覚に、擽ったさ以外の、じんわりと何かが拡がるような、言い表せ無い体の変化を感じた。
「かん、だ…ぁ、…んぅ……」
ちら、と、上目使いになった神田と目が合うと、ぼんやりとした思考の中にも羞恥を覚え、また顔が紅くなるが、見詰めたままに乱れる息を吐き出す事しか出来ない。
動くなと言われ、それに従ったままなのに、上がる呼吸に、体の熱さに、感じた事の無い感覚に、只されるがままに、壁を支えに立ち尽くすしかない。
「あ、んっ…あぁ、…や、ぁ……」
突然の刺激に背が反り、床に崩れ落ちそうになるが、いつの間にか神田の片腕が腰を支え、目の前に笑う彼の顔が合った。
「オナニーはあるんだな」
手がまたそこに触れ、布越しに全体を優しく撫で回されると、ひくひくと反応を返すのが解った。
「や、ぁ…ん……」
「嘘つけ。こいつは喜んでるぜ」
首筋に、鎖骨に、肩に、キスをし甘噛みをしつつも、揉む手が止む事は無い。
焦れるような、焦らすようなその刺激に、恥ずかしさと、気持ち良さと、もっと…と、求めるはしたない自分に次第にどうしたら良いのか判らなくなる。
ただ、神田が、手に入る事の無いと思っていた彼が、今自分だけを見ているのが嬉しかった。


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