其々の砌にて
黄
「入れよ」
「…良い、ん…です、か?」
先に自室の扉を開けて入れば、入口で立ち尽くして動かない奴が居る。
「意味が解らず付いて来たのか?」
癇に障るような笑いを態と落とし、意地悪く気を引く。
「……」
「来いよ。やはりお子様は怖いのか?」
「そんな事っ!」
勢いよくドアを後ろ手に閉め、挑むような視線を向けて来る可愛い獲物。
「ね…神田。あの、…どうかしたんですか?」
「何が?セックスに誘っただけだ」
「だから、…何でっ、ぅ…んっ、」
「お前と試してみたくなったから」
言葉を遮っておもむろに軽くキスをすれば、目を見開いて…の、驚いた顔。
クツクツと笑いながらその顔を眺めると、何とも複雑そうな表情が浮かんだ。
「本…気、で?」
「は?何が」
「……」
「何だよ」
セックスの事だと解っているが、その口から言わせてみたい。
「早くしろ。解っているから付いて来たんだろ?」
団服に手を掛けて、胸を斜めに飾る留め具を外し、釦をゆっくりと外して行く。
視線を外さず薄く小馬鹿にしたような笑みを貼付けながら、反感をかうように誘い込む。
「どうして…。どうして僕…なんですか?」
「嫌いだから。好きじゃ無い奴と試してみたくなった」
「意味、…解んない」
「気持ち好さが変わるか気になっただけだ。早く脱げよ」
「……」
「怖く無いんだろ?だったら付き合えよ」
「誰で、も…なんで、…僕と?」
「選んださ。顔は好みだしな。それに子供の心配も無い」
「……最低」
「煩い。早くしろよ。それとも逃げるか?アレン・ウォーカー」
「ぁ…、名前。…ちゃんと呼べるじゃないですか」
「アレン。なぁ、良いだろ?」
上着を床に落とすと腕を延ばし、相手の釦に指を掛けて顔を寄せる。
ざらり、と、飾りの連なりを外し、もう片方の腕で腰を抱き込みながら囁くように告げる。
「神、田…変です、よ?本当に…」
「やっぱり怖いのか。止めるか?アレン」
強くつよく見詰めて来る瞳を好ましく受け止めると、余裕を込めて微笑む。
「お前、初めてなのか?女とは?」
「…ぇ、」
「童貞か。なら悪かったな。帰れ」
「嫌です!……やり、ま…す」
負けず嫌い、自分の弱みを見せたく無い、特に仲の良く無い俺に対しては顕著だ。
「初めては好きな人と、なんて思ってそうだしな」
「…馬鹿にして」
「してないさ。出て行け」
下まで外した釦を再び嵌めて行く手に手を重ねて、その動作を止められた。
「やるって言ったでしょう」
「無理だろ」
「じゃあ、試しましょうよ。無理じゃ無いって事を」
手に入れる為の策に上手く捕われてくれる、その素直な少年の背をもう少し押す。
「セックスの意味は解ってるのか?アレン」
「…解っ、て…ます」
「キスも初めてだったとか?お子様アレン」
きり、と、唇を噛み締め、感情が揺れて見える仕種が可愛くて仕方が無い。
「出来ますよ。やるって言ったでしょう?」
睨む視線は強いが迷いが透けて見え、経験が無い事を物語っていた。
「合意の上だからな。泣くなよ?」
「泣くか!さっさと初めますよっ」
さぁ、捕まえた、絡め取れた、無垢なる愛らしい生き物を。
【アレン・ウォーカー。】
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