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其々の砌にて
別End.:R18用。

【2010.12.18〜2010.12.28連載】
クリスマスに合わせてリアルタイムに連載した物を纏めました。
**********


体に、木々に、建物に、白い小さな妖精が舞い降りる。
白い息を吐きながら、ふ…、と、指を折って数を数えてみた。
「あ、もうすぐクリスマスか」
寒さが厳しくもなる筈だと思いながらアレンは空を見上げる。
神田はクリスマスなんて興味はなさそうだけど。
折角なら何か贈り物をしたいなぁ、と、ぼんやりと考える。
「…何も欲しがらない気がする」
物欲も興味も薄い恋人の顔を思い浮かべて、こそり、と、苦笑いを零す。
「神田…、元気かなぁ」
うっすらと白く染まる石畳を踏みつつ独り続けて言葉を紡ぐ。
「会いたいな、ユウに」
街の入口からの道を進めば、段々と人と賑やかさが増える。
久しぶりに寄った街は何処も彼処も楽しそうだ。
至る所に樅の木や飾り、シュトーレンや玩具を見詰める子供達。
クリスマス一色に染まる街が、現実にその日が近いと伝えて来た。
窓硝子越しに店を覗けばサンタクロースの飾りが此方に微笑む。
思わず自分の顔にも笑みが浮かびサンタクロースと並んで窓に映った。
「僕にもサンタさん来るといいのになぁ」
クリスマス色の溢れる店々や家屋を眺めながら一時の安らぎを楽しむ。
可愛いらしい星型のキャンディーや型抜きのクッキー、綺麗なリボン。
幾つか買い求めてラッピングを頼むと、包装紙さえもクリスマス仕様。
何だかクリスマスの街に溶け込んで仲間に入れたようで嬉しくなった。
荷物が腕一杯になった頃、見計らったかのように迎えの者が寄って来た。
「そろそろ宜しいですか?」
「はい、お待たせしまし…た?」
「いえ」
「はい、これ。クリスマスが来たら開けて下さいね」
そう言って一つ星の飾りの付いた包み紙を渡してゆぅるりと微笑んだ。

*****

朝から何と無くざわついている教団内は、珍しく喜びによる騒がしさだ。
夜にはささやかだがパーティーの催しがある為に食堂が飾り立てられていた。
個室のドアにもリースが宛がわれ、普段地味な色合いの建物も賑やかさが溢れる。
クリスマスツリーへの飾り付けを手伝いながら、他愛無い会話を仲間達と楽しむ。
青、ピンク、ライトグリーン、玉状の飾りに蝋燭やサンタクロース。
寒々しい深い緑一色だった樅の木も着飾って美しく変わって行く。
「プレゼント買いたかったなぁ」
「仕方無いですよ。リナリーはさっき戻ったばかりですし」
「そう言うアレンは買ったんさ?」
「えぇ、この前の任務の帰りに。ちゃんとラビの分もありますよ」
「楽しみさ!」
普通の日常的な会話に心が温まるのを感じつつ、まだ戻らぬ恋人想い浮かべる。
「ん?どうかしたんさ?」
「アレンくん?」
ぼんやりとしたつもりは無かったが、飾りを渡す手が止まっていたらしい。
「いえ、幸せだなぁ、って」
にこり、と、微笑むと、顔を見合わせた二人からも笑みが返された。
「幸せさ」
「そうね、幸せだね」
「笑顔の交換もいいですね。ありがとう、リナリー、ラビ」
ふふり、と、優しい笑みを交わし合うと笑顔のまま三人は作業に戻る。
何気ない事こそ幸せの神は宿る、それに気付ける時間も幸せな事。
「皆で幸せになりたいですね」
「あら、なるわよ!」
「なるともさ!」

*****

そろそろパーティーの開始時刻、自室から会場である食堂まで一人で歩く。
移動は僅かな距離ではあるが、仲間内で寄りながら歩く人達が少しだけ羨ましい。
「まだかなぁ…」
「もう始まるさ!」
がしり、と、肩に衝撃が加わると、すぐ横にラビのにこやかに笑う顔。
「ひゃあ!…ラッ、ラビッ」
「いや、驚き過ぎさぁ」
「ぅ、え、…ぁ、すみません」
「あれ?くっつき虫なリンク監査官様は何処さ?」
「デザート作りに借り出されていますよ」
「だから居ない…と、言えばユウも居ないさね」
「…そう、ですね」
「アレン?」
「はい?ほら、好い匂いがしますよ」
にこり、と、紳士的な微笑みで隠してしまうと、食堂一面に広がる料理を指差した。
いつも見かける料理の他に、クリスマスらしい料理が所狭しと並べられている。
七面鳥の丸焼きにヨークシャープディング、スタッフィング、付け合わせの温野菜。
その横でグレービーソースにクランベリーソースが出番を待つ。
スパイスが効いた生地にぎっしりのドライフルーツがアイシングの隙間からも覗くクリスマスケーキ。
クリスマスプディングとブランデーバターからは洋酒の香が漂う。
ミンスパイは絶対に食べようと話しながら、山のように並ぶクリスマス料理を二人は眺める。
「アレン、目が真剣さ」
「そりゃあ、ね。食べるのは好きですから」
「アレン・ウォーカー。君専用に沢山用意させられましたよ」
いつの間にかリンクが側に寄り、三人を見つけたリナリーが手を振っている。
「行きましょうか?」
「はいさ♪」
「ちゃんと食べて下さいね。かなりの労力だったのですから」
集まりつつある人々の間を抜けリナリーの元へ歩めば仲の良い人達も集っていた。

****

メリークリスマスの声が幾重にも合わさりキスをするグラス達の奏でる音。
日頃の苛酷さが嘘のような和やかで穏やかな楽しい時間がこの場を支配する。
誰もが笑い、語らい、生きている事の大切さを喜び、今に感謝を捧げながら。
「どうかしたのですか?アレン・ウォーカー」
「ぇ…あ、いや。皆楽しそうだなぁ、って」
「そうですね。それはそうと、早く食べて下さい」
いつものアレンらしくなく、初めのグラスを手にしたまま、まだ何も手を付けていない。
山のように…ではなく、毎食山を築き上げる程の食欲の塊みたいな彼が珍しい事。
「うん…」
「ウォーカー?」
「…今任務についている人達にも食べさせないなぁ、って」
周りが賑やかで楽しんでいるのは嬉しいが、何故か寂しさが心を埋める。
秘め事な関係である恋人が、この場に居ない事が、何故かとても寂しい。
大っぴらに寄り添い仲睦まじく皆の前では過ごせないが、今この時を共有したかった。
「大丈夫ですよ。後で作りますから」
「リンク?」
「作ってあげますから。さぁ、食べて下さい」
手近にあったスプーンとフォークを皿に乗せるとアレンに向けて差し出す。
「…ありがとう」
割り切ってはいるのだろうが、だが寂しそうに笑う顔にリンクは何も言わなかった。
「何を食べますか?ほら、お皿を持って下さい。ウォーカー」
「ぅん、…リンクはどれを作ったの?」
「デザートは後です。ターキー、チキン、家鴨、先ずはメインからです」
「ターキーからでしょ!はい、アレンくん」
「アレン、ミートローフも旨いさ」
気付けば柔らかに笑うリナリーにラビ、持つ皿にはアレンの好みそうな料理。
さり気なく気遣う仲間に自然と笑みと共に瞳から溢れる涙が頬を伝う。
「ちょっ…、アレン!どうしたんさ」
「アレンくん、大丈夫?」
「何故泣くのですか。アレン・ウォーカー」
「ごめ、…ん。ありがとう」
会えなくて会いたくて寂しいけれど、自分には温かくしてくれる仲間が居てくれる。
とても幸せで嬉しい、貴方にもこの温もりを分けてあげたい、温めてあげたい。

『会いたいよ、ユウ…』


*****

心配をかけたくないから、彼の事は考えないようにして場を盛り上げる。
大道芸な技を見せ、沢山話し、食べて、今まで知らなかった人とも交流を持つ。
笑って、笑って、笑って、全てを忘れて隠してしまえ、と、笑顔を振り撒く。
多分、ラビは気付いている、多分、リナリーは察している、多分リンクは知っている。
僕の笑顔が偽物だという事を、何かを隠しているという事を、感づいているだろう。
でも、一緒に笑って、食べて、話して、紛らわせる行為を黙って受け止めてくれた。
皆が優しくて、優しくて、優しくてくれる程、寂しくて、苦しくて、会いたいよ。

『ユウ、帰って来て。ユウ』

ダンスを踊る人達をぼんやりと眺め、飲み物を口に運びながら視線を動かす。
それに気付いて微笑みや手を振って、グラスを掲げて応えてくれる幾人もの人達。
「………寂しそうですね。アレン・ウォーカー」
「リンク…」
いつもの様にひそやかに後ろに立つ彼の言葉には労りが感じられた。
「部屋に戻りますか?」
「…ぅん、そうしようかな。リンクは楽しんで来て?」
「行きますよ、ウォーカー」
そっと腰を押され静かにその場から連れ出されると、とてもほっとした自分が居た。

*****

寝具に後ろ向きに倒れ込み両腕で顔を覆い隠してしまうと溜息が漏れる。
「少し眠りますか?」
「んー………」
「独りが良いなら出ていますが?」
「ん、……いや、居て」
てふ、と、頭が触られると、はふり、と、柔らかな感触が全身を包んだ。
「何かあったら呼んで下さい」
「ん、ありがとう。リンク」
見られたくない、見せたくない、でも寂しいと思う気持ちを汲み取ったのだろう。
リンクの優しさに感謝をしつつ、ざわついていた心が少し楽になった気がした。
静かに本の頁を繰る紙の音と、時折椅子の傾ぐ音だけが耳に届く。
心地良い静かさに、優しさに抱かれて、とろり、と、眠気が訪れる。
「リン、クぅ…ねむ、ぃ」
「居ますから」
「…ぅん、…あり、が……」
規則正しい深い呼吸音に変わる頃、はさり、と、上掛けの中をリンクが覗く。
「泣いたのか?」
一筋だけ流れた涙の跡を指でなぞり消すと、一度だけ頭を優しく撫でる。
軽く身じろぐ体にきちんと上掛けを掛けると、静かに椅子に腰掛け直した。
そしてまた紙と息をする音だけが奏でられ、アレンが目覚める迄続いた。

*****

「アレン?」
ふ、と、呼ばれた気がしたが此処に居るはずも声が届くはずも無い。
今自分が赴いている土地とはとてもとても離れていて会う事は叶わぬのだから。
一緒に居て欲しいと言われた日付を共に過ごせると思っていた。
だが、予定はずれ込み約束は守られずにあり、いつもより舌打ちの回数が増える。
怯える同行者等は路傍の石よろしく完全に視界から遮断し恋人を想う。
任務自体が終わらぬのなら諦めも付くが、手違いにより足止めを食っていた。
その事がより苛立ちを生み、歯痒い思いと焦がれる想いが交錯する。
珍しく言い出した我が儘、たった一つの願いすら叶えられないとは。
過ごしたく無い連中と、過ごしたく無い土地とに苛々とする感情が増して行く。
「アレン、ごめんな…」
初めてかもしれない謝罪の言葉は、聞かせる相手の無い中、ほろり、と、零れ落ちた。

*****

「アレンくんは?」
「さっきリンクと出て行ったさ」
「そう。ね、ラビ…」
「ま、聞かない方が良いと思うさ」
にこり、と、人懐っこい笑みを浮かべると、手にしていた飴菓子をリナリーの口に入れる。
「口は禍の元さね」
「…。元気になると良いね」
菓子についた棒を摘み口内で転がしながら、寂しそうにリナリーは呟く。
何も言わずにその頭を撫でると、ラビはもう一度微笑みを優しく浮かべた。
「大丈夫さ」
「うん。そうだよね…」
「いや、大丈夫じゃ無いよ。ラビ」
「兄さん!」
「コムイッ!」
ヘルメットを被り手にはドリルを持った妹命、妹に近付く者は容赦せぬ影が迫る。
「リナリーに触ったね。その飴で間接キスなんて事は…」
ゆらり、と、鬼気迫る姿で肉薄するシスコン過ぎる変態兄さんことコムイ室長。
とても偉い人なのに妹の事に関してはどうも行き過ぎ、やり過ぎな人。
「ごめん、リナリー。逃げるさ!」
脱兎の如く走り去るラビをコムイは追い、一人残されたリナリーは溜息をついた。
「真っ直ぐに一途過ぎるのも考えちゃうわね」

*****

「ん、…な、ぁに?」
「ウォーカー?」
視線が定まらぬ瞳で天井を見上げたまま、ぼやり、と、口を動かす。
その顔を覗き込んで額の髪を払ってやれば、ゆくり、と、顔を向けて来た。
「…リ、ンク?」
「大丈夫ですか?何か飲みますか?」
ふる、と、頭を動かしていらない事を伝えると、またゆっくりと口を開いた。
「ね…、今、何か…言った?」
「いいえ。どうかしましたか?」
「ぅうん、だい…じょ、ぶ」

『ユウ…に、呼ばれ、た……気が、する』

霞の掛かる思考に自分が夢を見て、現実とまぜこぜにしていると気付く。
でも、それが正しいかどうかは判らず、まだぼんやりとした頭を抱えている事は解った。
「まだ夜中ですから」
「……ぅ…ん、」
乱れた上掛けを直してやりながら、子供に諭すように優しく語りかける。
「おやすみ。夢で想う人に会えると良いですね」
その声が聞こえたのかは判らないが、微かにだが嬉しそうにアレンが小さく笑った。
「良い夢を。アレン…、ウォーカー」

*****

気付いたのは偶然、多分、気付かれた方も意外だったと思う程の僅かな気。
夜中に何処かに出掛け、数時間もすれば戻り、何時も通りな朝を迎える。
見張る事が役割だけれど、以前後を追った時には別段問い詰める内容では無かったから。
死者に哀悼を、自分の不甲斐無さに涙を、気持ちを落ち着ける瞑想を。
彼自身のリセットの為に使われていた時間で、それを覗くのは憚られたから。
報告する事はせずに、任務だけれども、そこだけは体と心を眠らせた。
気付かぬふりを、見ぬふりを、此処には護りがあるし、彼は必ず戻るから。
そんなアレン・ウォーカーと神田ユウの関係を知ったのは極最近の事。
ある夜、犬猿にしか見えない彼の部屋に、アレン・ウォーカーが消える後ろ姿を。
神田ユウの部屋に、真夜中と言える時間に彼は訪れていて、でも朝方には戻っていた。
偶々自分が用があって通り掛かったように、偶々彼等も用が合ったのかも知れ無い。
同じエクソシストで同じ任務に着く事もあるのだからそれは無いとは言い切れ無い。
その日の朝には彼は自分のベッドで起き、いつものようにおはようと挨拶をして来た。
気にする事もなかったし、気にもならなかった事が驚きの事になるとは。
食堂で食事を取るウォーカーにブックマンJr.が触れた時に感じた殺気。
気のせい…何の気配と取り違えたか?と、視線を動かした時にぶつかった目線。
ほんの一瞬、絡んだかどうかも怪しい位だったが、それは間違い無かったのだ。
「お前、余計な事は言うなよ」
横を通り抜け様に小さく脅しをかけ、先程感じた気を放ち睨んで来た。
思わず後を追うと待っていたのか、物影で何時もとは違うきつさを纏って立っていた。
「どういう意味ですか?神田ユウ」
「気付いたんだろ?そのままの意味だ」
「それは…」
「夜中にも見ただろう?」
「…えぇ」
「俺はバラしても構わないが、あいつが困るからな」
「だから秘密だと?」
「あぁ。バラしたければバラせばいい。だが、触るなよ」
「独占欲…ですか?」
「俺に殺されたくなければな」
告白と忠告がされると、彼は何事も無かったかのように去り、その秘密を知った。

*****

「ん、…っ、……朝」
「目が覚めましたか?」
「リンク…ぁ、」
「何です?」
「起きて、た…の?」
「約束は守りますから」
自分が声を掛けた時の為だけに待っていたのか本が山を築いていた。
「ごめ…ん」
「別に謝られるような事はありません」
ベッドの上に座り込むと、ふるり、と、身を震わせて、ぎぅ、と自身を抱く。
その体に慣れた手つきで温もりが逃げぬように上着を掛けてやるとお茶を入れる。
「風邪をひきますよ。起きたらちゃんと羽織って下さい」
湯気をたてるカップを差し出しながら一つは自分の口に運んだ。
「ね、起きる頃を見計らってくれたよね?」
少し温度の高い液体に口をつけながら、本を片付ける背中に語りかける。
「あと、5分…見誤ったので少し熱いですが」
自分の為になんだかんだと世話を、見張りだけではなく焼いてくれる。
「ありがとう。…あ!」
「どうかしましたか?」
「プレゼント!プレゼント渡すの忘れた…」
「は?」
「昨日配るつもりだったのに」
ベッドと床の隙間を覗きながら、腕を突っ込んで置いていた筈の袋を捜す。
「んー…、ん?あれ、」
「棚の上ですよ。掃除の時移動させましたよね?」
「あ!そうだ」
捜し物を指差しながら溜息をこれ見よがしにつくが、相手は気にした風も無く言う。
「取ってください!」
「少しは片付けるとか、管理した場所を覚えるとか…」
「リンクが居るから必要無いです。はい!」
にこにこと無邪気な笑顔で腕を広げ、荷物を手渡してくれるのを当然のように待つ。
「ウォーカー。まったく君は…」
そう言いながらも荷物を渡す自分は甘いと思うが頼られるのは嫌いじゃ無い。
「ありがとう!えーとぉ…」
折り返してある袋の口を開けると、中を見ながら目当ての物を捜す。
「はい!これはリンクの分」
掌サイズの小さな箱は緑の紙に赤いリボンがかけられ靴下の飾りが揺れている。
「私…の、分?」
「そうですよ」
問い返す声に対し不思議そうに見詰めて首を傾げると、何か問題でも?の顔。
「親しい人の分だけなんですけど。要りませんか?」
「いえ。ありがとうございます」
「よかった。メリークリスマス!リンク」

*****

一日遅れてしまったけど…と、渡し損ねたプレゼントを配って歩く。
見付からない人は部屋の扉に掛け、忙しい人には黙って机の上に。
袋が空になる頃に、ついでを装って恋人の部屋のドアにノックを一つ。
「…やっぱり、ね」
一緒に居て…と、我が儘を言って25日の約束を結び、任務に着くのを見送った。
そう難しくない仕事だから、きっと側でクリスマスを過ごせると思って。
だが未だに帰還の報も耳に入らず、今部屋も確認したがやはり空で。
仕方が無いけれど、でも、その日だけは、自分にとって特別な日だったから。
マナと名乗る大切な人、大事にしてくれた人、もう居ない家族なる人。
彼に出会って生まれ変わった日、拾われた日、新たに歩み出した日。
人が言う誕生日に当たる日、クリスマスと自分の誕生日とが重なる日。
だからこそ一緒に過ごして欲しかった、聖なる夜を特別な日を自分と共に。
「誕生日、だったんだけど…」
彼は知らない、態々伝えるのも何か期待しているようで、物欲しげなようで。
「早く…無事な顔を見せて下さいね」
ドアを愛しそうに一撫でするとくるりと振り返り来た道を独り戻った。

*****

すぐにでも抱きしめたいし謝りたいが、自分のすべき事はまず任務の完了を伝える事。
一旦自室に足を運ぶが、出た時と変わらず部屋は何も変わらずに合った。
入れ違いに任務に出たのか?と、手早く報告書を作ると提出がてら確認をする。
出掛けては無く教団内に居る事に安堵しながら、その姿を捜して歩く。
「アレン…」
小さく想い人の名を思わず漏らすと、足早に居そうな場所を捜す。
誰かに尋ねる訳にも行かず、お気に入りの場所等も色々と捜してみた。
無くし物と同じで探す時には見付からず苛々としつつ歩いた。
「神田!まだお風呂に入ってなかったの?」
先程書類を出した時のままの姿を、幾つものファイルを抱えたリナリーに咎められる。
「どうしたの?」
「…何でもねぇ」
少し冷静になろうと部屋に戻るが、やはりそこには訪れた形跡が無かった。
「自分の部屋に居るのか…」
一通り捜しはしたが、これだけ見付からないとなれば、見ていない場所となれば。
だが、仲が悪いと周りに思わせている為、人の多い昼間に行くのは難しい。
他とは違いその部屋にだけ同室者が居るが、それについてはもう問題は無いだろう。
「後で…か」
夕刻の食事時には必ず食堂で見付かるだろう、と、一旦頭を切り替える。
「また見付かると煩いしな」
汚れと苛立ちを落とす為に部屋を出ると、またそこは人の居ない空間となった。

*****

「あ、お帰りなさい!さっぱりしました?」
「………」
「ユウ?早く閉めて下さいよ!」
ドアを開ければ色とりどりの飾りが顔の前に下がり、壁を埋め、正しく色の洪水。
ごつり、と、扉を開けた時にぶつかったのは、やはり飾られた1mの程の鉢植えのツリー。
クリスマスを主張する為であろう七面鳥に何故か笊蕎麦が一緒に置かれている。
合わせて床が埋め尽くされ何処を歩けば…な、程の自分は食べない甘い菓子類。
「ユウ?」
「おま…ぇ、この馬鹿っ!」
「しーっ!見付かるじゃないですかっ」
自分の部屋なのに忍び込む様に体を斜めにすると、ぎりぎりな隙間から中に入る。
「何やってんだ!」
「え、クリスマスですよ。昨日出来なかったでしょ?」
「そうじゃなくて!…ちょっと待ってろ」
手前から食べ物詰めて隙間を開けると、ベッドの上でにこにこ顔の恋人に近付く。
「何怒ってるんですか?」
ことり、と、首を傾げる様は愛らしいが、今はそれは後回しにする。
「アレンッ!」
倒れ込む様に抱き着くとそのまま強くつよく抱きしめて寝具に沈んだ。
「このバカモヤシ!…馬鹿っ」
抱き着いて来たその背中に腕を回して、ぎう、と、強く抱きしめ返す。
「もしかして、僕の事探してました?」
「当たり前だろ…」
洗い立ての髪に手を伸ばすと、優しく愛おしむように何度も撫でる。
「ごめんね。今日戻るって聞いたから料理をしてたんですよ」
顔を上げて覗き込むと、にこり、と、幸せそうに微笑む顔が目に入る。
「これ…作った…のか?」
「はい。リンクに手伝って貰いましたけど」
ふふり、と、楽しそうに笑うと、じつ、と、見詰める鼻先にキスを贈る。
「ご飯、まだでしょう?」
「あ、…あぁ。でも、」
「でも?」
「先にお前が食べたい」
「だぁめ!」
神田の唇に一差し指を当てると、キスをしようとするのを阻止する。
「折角頑張ったんですから!…それに、」
「それに?」
「今日の夜は長いですよ?」
悪戯っ子のように笑いながら今日はこのまま一晩中一緒に過ごす事を表情が伝える。
「覚悟しろよ、アレン」
「受けてたちますよ!」
互いに一瞬視線を合わすが次の瞬間には楽しくて仕方が無い笑いが弾けた。

*****

重ねた皿を壁に押しやると、ご馳走様でした!と、満足そうなアレンの笑顔。
「旨かったか?」
「はい!しかし、神田はいつも少食ですよね」
確かに多く食べる方では無いが、比べる基準が寄生型の大食漢では仕方が無いと思う。
ベッドに寝そべって声を掛ける神田の横に腰掛けると、ぎぎぅ、と、壁側に押しやる。
「皿と同じ扱いをするな」
「だって横に居たいんだもの。空けて!」
「食ったから寝たいんだろ」
「いいえ。ユウの横だからです」
体をずらして少し場所を空けてやると、べふり、と、同じ向きに倒れ伏した。
「あー、幸せ」
「…なぁ、アレン」
「はい?」
少し反動をつけて起き上がると、うつ伏せたアレンの上に神田の言葉が降り落ちる。
「ごめんな、アレン」
「…どぅ、し、たんですか?」
首だけ向けて見上げていたが、いつもとは違う様子に体を起こして見詰める。
「ユウ?」
「約束、しただろ?ごめんな」
「仕方がないですよ。ね?」
「だって…。お前誕生日だったろう?」
「ぇ…どうし、て……」
「入団した頃に誰かと話してたよな?」
「そう、だっけ?そんな前の事…」
自分でも全く覚えてない、多分何かの話のついでか流れで話したのだろう。
そんな些細な事を大好きな人が覚えていてくれたなんて何よりも嬉しい。
「ごめんな、アレン」
「謝らないで、ユウ。嬉しい」
「アレン?」
「ありがとう、ユウ」
きぅ、と、抱き着きその胸に頭を預けて甘えると優しく抱きしめられる。
「ユウは知らないと思ってた。僕の誕生日」
「…間違ってたか?」
「うぅん、間違って無い。それがアレンの誕生日」
静かに儚く、でも、とてもとても幸せそうに笑みを浮かべて神田に微笑む。
「ありがとう、ユウ」

*****

思い出した様に抱いた体を放すと、枕の下から5cm角の高さの薄い箱を取り出した。
「やる」
「これは?」
「誕生日とクリスマスプレゼントだ」
「ぇ…ユウが買ったの?」
「他に誰が買うんだ」
渡された黒い箱には何の飾りも無くプレゼントらしく無いのが神田らしい。
「開けても?」
「あぁ」
かつり、と、小さく音を立てて箱の蓋が外されると、中からは赤いリボンタイ。
「他の物だとバレるだろ。だから似た物にした」
「ありがとう…ぁ、」
円状に巻かれた端を持ち上げて取り出すと、その裏側に小さく刺繍された言葉。
「“心はいつも貴方と”」
「体は無理だからな。せめて想いは添わせたい」
「ありがとう。…ぁ、」
「何?」
「エクソシストの皆にはお菓子のプレゼントを買ったんです、け…どぉ、」
「ど?」
「僕の買い物を待っててくれた…」
「奴にやった、と」
「ぅ、…はい」
どうせお前が食うつもりだったんだろ?」
「はい…」
こそり、と、目線を合わせたり外したりしながら、困り顔での視線が当たる。
「他には?」
「へ?」
「恋人も他と同じ扱いなのか?」
「…ぇ、と………ね、」
「忘れていたとか?」
「いや、ね…考えた、ん…ですよ」
「それで?」
「…………僕、かな」
「アレン?」
「そぅ、ユウが1番…欲しがりそうな…の、って……僕か、と」
完全に目を反らしたままに、言い終わる頃には頬が貰ったリボンタイと同じ赤色。
可愛らしい言葉と態度に小さく笑うと、染まる頬にリップ音付きのキスをする。
「最高のプレゼントだ」
「…本当?」
「あぁ。でも、プレゼントなら…」
リボンタイを借り受けると、きゆ、と、髪一束を掬ってそこにリボン結びを施す。
「これで完璧」

*****

引き合うように顔を寄せると、どちらともなく唇が触れるだけのキスをする。
「貰ってもいいか?」
「…う、ん………でも、」
「まだ明るい、か?」
少し長めの軽いキスも何となく気恥ずかしかったが、この先を考えると何故か照れる。
冬の太陽は大分傾きつつあり、後数時間もしない内に暗さが来よう。
「…今、から?」
「背徳的な昼間の行為も好いだろ?」
「ぅ…、ん……」
「陽射しの元でアレンの全てを見せて欲しい」
ランプの焔に照らさせて、月の光に包まれて、だが真の明るさで晒した事は無い。
一つひとつの表情や仕草が、きちり、と、拾い見られるかと思うとやはり恥ずかしい。
「アレン、我慢出来ない…」
僅かに潜めた低い声に蜜を絡めると、耳に直接的に甘さを吹き込む。
「ねぇ、見せて?アレン」
普段は聞く事の無い甘えた声音に狡さを覚えても嬉しさが生まれる。
頭では恥ずかしいが、体と心は正直に反応し神田をとても求めて止まない。
「アレン、嫌?」
「……ずる、ぃ」
余裕の笑みで、全てを見透かした視線で、焦る自分で楽しんでいるのが判る。
「好きだよ、アレン」
「ユ、ウ…っ、ん……」
顔が近付けば逆らえる筈も無く、そのまま目を閉じれば柔らかくキスをされる。
「お前甘いなぁ」
くすくすと笑いながら離れると、首筋を舐めそこにも口付けをして行く。
「全体的に甘い匂いだな」
「だっ、て…作ってた、から……っ、」
鎖骨の窪み迄舌で辿ると口を離し、また唇を塞ぐとキスをしながら押し倒される。
中に舌を入れて上顎の曲線を舐め下顎と舌の間の窪みをつつき舌を絡める。
退かれた舌を思わず追えば、吸われ先端を押し舐められ、唾液が零れた。
「アレン、しても良い?」
「も、…バ神田っ!」
口の端(ハ)を伝う体液を舐め取りながら、顔を覗き見つつ問いかけて来る。
「止める?俺とじゃ嫌?」
「……嫌、な…訳、無い…もん」
可愛く意地悪く仕掛けて来る恋人に、嫌じゃ無い自分が逆らえる訳が無い。
キスで煽っておきながら、今更体は我慢出来無いし、心は触れたがるのだから。
「貰って、くれ…る?」
「勿論」
額にキスを一つすると上着の中に手を入れ、下腹から胸に掛けて撫でながらはぐる。
残る傷の痕を指で辿り、消すように優しく一つひとつに口付けをして行く。
腕をシャツから抜かせると胸の突起を舌で突き空いた方は指で弄る。
舐めて、擦って、噛んで、摘んで、小さくても固く主張する姿を構う。
「ひゃ…ぅ、や、っあ、ぁんっ」
「可愛いよ、アレン」
日に暴かれて何時もとは違い色付く肌も、小さな見落としそうな指の動きも。
顔を赤くし声を零し感じている様が堪らなく愛おしくもっと感じさせたくなる。
見える事が恥ずかしいのか手で瞳を隠す為にいつもは抑えられる声がそのままなのも好い。
「ユウッ、っあ、ぁあ…んぅう」
「何?何処か舐めて欲しいのか?」
脇腹を擽りベルトを緩めて骨盤のラインを撫でると、下着と一緒にズボンを下ろす。
「や、だめぇ、…ん、あぁっ!」
手を伸ばして止めようとする両手首を掴むと見下ろしながら微笑む。
「やっと顔が見えた」
潤んだ瞳に喜びを湛え自分の顔が映る程近付いてから、ゆくり、と、キスを贈る。
「好きだよ、アレン。大好きだ」
「ユ、ウ…?」
今の優しい笑みとは打って変わって悪戯っ子の笑みの顔に変わると、髪に結んだリボンタイをすり、と、解く。
手早く握った腕を拘束すると本当に嬉しそうに笑いながら、ちぅ、と、鼻先にキスをする。
「これで顔がよく見える。気持ち好い顔を見せてくれるよな?」
「ぁん!やぅ、ん、っあ、あ、ぁ」
許可を得るつもりは無いらしく、そういいながらも手は下を弄り始める。
「ひゃあん、っあ、っ、うぁん、んぅ…っ、」
「まだそんなに虐めて無いけどなぁ?」
「ユウッ、ぁああ、ん、っはぅ」
ひくり、と、立ち上がる先に爪を掛け体液を呼ぶように何度も引っ掛けては放す。
少しずつ量を増やして来る歓喜の涙を指で先端に広げてぬめりを良くしては撫でる。
「可愛いよ、アレン。それに好い声だ」
「ばかぁっ…んぅ、あぁん、っ、」
「アレン。此処の何処を舐めて欲しい?」
簡単に達するポイントは知っているし、何処が好きで焦らせば高まるかも知っている。
多分、口にはしないだろうが赤く染まる体がもっと恥ずかしくて赤くなるのが見たい。
「アレン、何処が好い?」
「んぅ…も、やだぁ、っ、は、ぁああ」
「こっちも好い声だな」
滲み出る水分が、くちゅん、と、ちゅり、と、擦られる度に鳴き声を上げる。
「いわな、い…でっあ、ん、っう、はぁ、」
「可愛いな」
微かに触れるキスをして顔を下に動かすと、舌を出して奮え待つそこを撫でる。
舌先だけで、つぅう…と、なぞり、ひくつくそれを、ゆぅるり、と、攻めて行く。
「や、だぁ、…っめぇ!ぁん、う」
縛られた手で頭を退けようとするが、結ばれた事と快楽で上手く逃げられない。
「ひゃ…ぅん、っあ、う、…んぁう、く」
揃えて縛られた手の間に片手を入れると指を絡め邪魔をさせないように留める。
もう一つの手で固くなり鳴き続けるそれを支えると、丸みを帯びる先端を舐めた。
次々と零れて来る水分を零さぬ様に舐めてはまた再び溢れるのを待つ。
何度か繰り返すと口でそれを支え唇で擦りながら奥の付け根迄くわえ込む。
ゆっくりと引き抜き、また同じ様に奥まで入れながら舌も添えて支える。
「や、だぁ、も…ぁん、っう」
唾液を塗り付けつつ、今度は緩急を付けて出し入れをし、軽く噛みながらする。
舌の柔らかさと歯の固さ唾液と精液とを使い頬の肉と喉の奥で先を喜ばせる。
柔らかく袋の部分を揉んでは撫でて、爪でうっすらと刺激するのも忘れない。
「くちぃ、は、なし…っは、ぅん、ユウ…ぁ、やぁ、だ」
張り詰めて脈打つ固さが与えられた享楽の欲を吐き出したいと特有の熱を孕む。
幹を伝う互いの水分が混ざり合った液体は、ふはり、と、生える体毛を濡らす。
体を支配する強い快感に流されるのが怖いのか繋いだ手を、きゆぅ、と、握り締めて来た。
だが、十分過ぎる程に潤い、口で扱かれる気持ち良さに逆らう気配は見られない。
「や、も…へんっ、に……ユウゥ、ぁう、ん…」
括れ迄を口にすると舐めながらその下の部分を軽く握り指の腹で上下に擦る。
びくつくそれのタイミングに合わせて強く吸えば白濁した液が口内を満たした。
零さないように吐き出し終わるのを待つと口を放し荒い息で見詰める視線の前で呑む。
「っ、…や、め……」
よく見えるのは、より見せ付けるのは、それは残光を残す太陽のせいだろう。
晒される羞恥からか色付く頬や上下する胸にはもっと赤色が入り艶が増す。
未だ余韻に浸る蕩けた瞳が煌めくのが美しく聖夜に瞬いていた星を思い出した。
「アレン、愛してるから」
「ユ、ウ…僕も、愛して…る」
結わいた赤いリボンタイを解くと、そこにはまだ赤く痕が、うすら、と、残る。
捕らえて離さないと主張するかのようなラインを辿るように舐めて労った。
「痕…。悪かった」
ふるり、と、頭(カブリ)を振る事で許すと、やわり、と、本当に愛らしく微笑む。
「謝らないで。…嬉しいから」
「嬉しい?」
「ユウのモノだという印みたい」
腕を掲げて、うとり、と、愛おしむように見ると、指で痕をなぞる。
「嬉しい…」
その様子を髪を撫でて眺めていたが、何を思ったのかまた外したリボンタイを持つ。
「じゃあ、これでどうだ?」
本来の使い道通りに首に通し結ぶと綺麗な蝶結びが首元に出来上がる。
「首輪」
恋人の珍しい戯れ事に、ぱしり、と、何度か瞬きをしたが直ぐに笑顔に変わる。
「一生繋いでおいてね?」
「あぁ。プレゼントは毎年新しい首輪にしよう」
「来年のプレゼントは首輪かぁ」
「次の年もまた次もずっと、だ」
一日遅れてはしまったけれど、来年とその先と同じ未来が在るとの約束の言葉。
見える事も触れる事も出来ないけれど今の真実の気持ちが詰まった最高のプレゼント。
「何笑ってやがる」
「だって幸せなんだもん」
「変な奴だな」
気付いているのか気付いていないのか、または気付かぬ振りなのか。
ただ言える事は、聖夜に繋がる約束を嘘を嫌う彼が違える事は無いだろう。

「Merry Christmas、ユウ」
「Happy Birthday、アレン」


End.



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