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攘夷ばっかり
攘夷ズ風邪リレー3(高杉)





「ったくよーしょうがねーな、銀サン特製お粥だオラ」






古臭い民宿に滞在すること早一週間。その一室では順調に風邪菌リレーが繰り広げられていた。




「…くっそ…テメェに借り作っちまうとは…」
「今度団子10本おごれや」
「しかし俺が治った途端に高杉の具合が悪くなるとは…不思議なこともあるものだな」
「アッハッハッハこりゃわしも気をつけんといかんのー!」
「オメーは笑い声で菌を弾き飛ばしてんだろ」




目付きが悪く近寄りがたい高杉が大人しく蒲団にくるまっている姿は、何とも珍しい光景である。凶悪な目付きは健在であるが。




「…ックソ…絶対人差し指のせいだ…」
「バカか!!E.Tで風邪がうつるわけねーだろ!!」
「高杉貴様宇宙人と交信していたのか」
「テメェが交信してたんだろうが!!」
「アッハッハッハ!!とりあえず高杉も早く治さんといかんのー…確かおんしにピッタリの薬があったはずじゃ」



言いながらおもむろに立ち上がった辰馬は、飲み物を保存してある桶をごそごそと漁りだした。
そして高杉に手渡したのは、瓶に入った白い―――――





「ほれ、ぎゅうにゅぼへぇっ」



満面の笑みで渡されたのは牛乳。それが暗に意味することは最早この4人の中では常識である。高杉は言葉を最後まで聞く前に素早く蒲団をはねのけ、見事なアッパーカットを繰り出した。




「…ぎゅ…何だって?よく聞こえなかったぜェ…」
「ぎゅ…ぎゅうぎゅうに入った濁った水じゃー」
「…で?それがどうした」
「どうやらこの液体には背を伸ばす効果と風邪を治す効果があるらしいぜよ!!」
「そんな万能薬あるわけねェだろ!!」



さすがに騙せなかったのーと豪快に笑う辰馬にもう一度げんこつを加える。
効能にツッコまないのは些か希望を持っているからか。



「まーまー、辰馬もお前のことを思って気ぃ使ってくれたんだろ」
「嫌がらせじゃねェか…てめェもぶっ飛ばすぞ」
「何事もヴァイオレンスになってはいかんぞ高杉!!」
「誰がそうさせてると思ってんだ!!」
「俺もお前に合うと思った薬を用意したのだぞ」



神妙な顔つきで桂が私物が取り出したのは少しくすんだ白い色の、犬が大好きな。






「カルシウムが欲しいのならこれが一番手っ取り早かろ」
「「骨かよォォォォ!!!!!!」」



戦場とさして変わらぬ殺気を瞬時に発した高杉に恐怖を覚え、辰馬と銀時は桂の首根っこを掴み脱走する。
刀を抜く音が聞こえたが追ってくる気配はないようだ。3人はそのままかまどへと走った。

























「ヅラお前ホントバカか!!」
「いくら何でも骨はスパイス効きすぎぜよ!!」
「ヅラじゃない桂だ。バカはお前達だろう、葛根湯の作り方もわからなかったのか」
「…っオメーがいっつもホイホイ作るからだろ!!」
「全く…よく見ておけ。葛根の他には麻黄と大棗、それと生姜を同じ割合で入れて…」


銀時と桂が飲んだ分で薬がなくなってしまったため、再び葛根湯を作っている。とはいっても桂が作っているのを辰馬と銀時は覗いているだけだが。

この前薬草の調合に苦労したからか、的確で手際の良い桂の動作に2人は感心しているようだ。
感心しつつも、ため息混じりに銀時が口を開く。




「ったくよー、あのチビは冗談通じねーんだからあんま刺激すんなよな」
「俺がいつジャンクを言った」
「ジョークじゃヅラ」
「そうかジャンヌダルクか」
「原型どこいったオイ」




しっかり見ておけ、と言われたのに喋っている間にいつの間にか薬が出来上がったようだ。漢方薬独特の匂いが鼻を刺激する。


だがそれを持って部屋に戻った3人は目を丸くした。









――――――――高杉が、いない。













高杉が寝ていた蒲団はくしゃくしゃになっているだけだ。額に乗せていた布も無造作に落ちている。そして何より刀がない。すなわち。



3人は縁側から外に飛び出し方々に駆け出した。





「高杉!!おい返事しやがれ!!」


いつもの高杉なら心配などいらない。だが、


「いるんだろう高杉!!どこだ!?」


風邪をひいて熱まで出ている今この時、


「ちゃんと薬作ったきに飲まんといかんぜよ!!」


敵に襲われでもしていたら。









違っていてほしいという願いとまさかという恐怖が入り交じり、緊張が高まっていく。





まさか本当に、と危惧したその時。





遥か遠方に高杉らしき人影が見えた。


何と刀を抜いている。戦っているようだ。
これはまずい、と全速力で高杉に走り寄っていく。


が、高杉の刀の切っ先にいる者がだんだんはっきりと見えてくるにつれ、3人の表情はみるみる怒りへと変わっていく。

それは黒くて小さい―――――――








「てめェェェ!!」
「何をしちょるかと思えば!!」
「このたわけがァァ!!!!」



「「「猫とマジで睨みあってんじゃねェェェ!!!!!!」」」






叫ぶと同時に3人の飛び蹴りが命中した。









「てめェら病人に何してんだ!!!!殺す気か!!!!」
「オメーが何してんだァァァ!!!!」
「寝てたらコイツの爪の音がガリガリうるさ」
「貴様ァァァ!!!!それだけの理由でいたいけな猫にケンカを売ったのか!!!!」
「これのどこがいたいけだ!!見ろこの凶悪な目と牙と」
「おんしに言われたら終わりじゃ!!!!わしら本気で心配したんぜよ!!!!!!」




先程の緊張感はどこへやら、辺り一面に響くような大声で口喧嘩を始める。
一番被害を受けたのはこの黒くて小さい猫かもしれない。



















「ったくホンットこいつわけわかんねーな」


散々口論をした後部屋に戻り、高杉に作った薬を飲ませて寝かせた。ここ最近恒例のパターンである。


桂がさっきの黒猫を気に入ったらしく、猫を膝に乗せている。


「このバカは大人しくしているということを知らんからな…まあお前も人の事を言える立場ではないぞ、銀時」
「うっせェ」
「しっかしその根性にはやられたぜよ、体調が悪いっちゅーのにあんな所まで猫を追いかけてくとはのう」


こっちはとんだ迷惑だけどな、と呟く銀時に苦笑が漏れる。



光沢が綺麗な漆黒の猫の毛並みを撫でながら桂が微笑んだ。











「こやつが治ったら、また遊んでやってくれぬか」















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いつか高杉は本誌でボケると信じてる!

2009.4.27


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