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攘夷ばっかり
死而後已





――――――――内通者が、いた。





天人へ攘夷派の潜伏場所の情報を漏らした者が仲間内にいたらしい。皆が寝静まった真夜中に奇襲を受けた。


寂寞の夜に似つかわしくない砲弾の音が響く。漆黒に一筋の光が見えたと思うと、たちまち暗紅色の業火に包まれた。


刀が交わる金属音。斬られ聞こえる悲鳴。就寝するにはあまりにも惨檐な光景だった。



















精一杯奮闘した。が、思いもよらぬ襲撃に屈服してしまうのは至極当然のことで。

今はようやく鎮火したが、滞在していた小屋は猛火に包まれ跡形もない。

敗残した志士などほんの一握りだ。小屋にいた殆んどが反撃する間もなく息絶えた。



















「…あのバカまさか死んだなんてこたァねェだろうな」


足元で弱い炎を発している残骸を踏み潰し歩きながら、高杉が呟いた。

桂と坂本の安否は確認した。自分達も少なからず傷を負った。しかしそれより僅かだが生き残った兵士の手当てをしている。












だがあの銀髪だけ、見当たらない。








白夜叉と言われるほどの実力を持っているからそう簡単にはやられるはずがない、と脳は必死に訴える。が、見渡す限りの廃墟を眺めていると心まで陰気になるらしい。













必死に銀色の頭を探す。


さすがに胸騒ぎがしてきたその時、遠方にまるで夜陰に飲み込まれそうな銀時が見えた。



思わず安堵のため息をつく。何で俺がコイツに振り回されなきゃいけねェんだ、と怒りも少し込み上げた。

そしてゆっくり近づいていく。





銀時はというと、胡座をかいて座りこんでいる。いつもは目立つ白装束が目立たない理由が近くに来てわかった。大量の血がこびりついて黒く変色している。殆どが返り血のようだ。


















「オイ」
「いでっ」

高杉の膝蹴りが銀時の背中にめり込んだ。
怪訝な表情を浮かべ銀時は振り向く。


その辺に散らばる残骸にうっすら灯った炎が暗闇を照らしている。
近くで見ると想像を遥かに越える血塗れの顔をしていた。




「生きてやがったか」
「俺が死ぬわけねーだろ。こんな奇襲よりゴキブリの奇襲のが怖ぇーよ」
「ゴキブリホイホイで一撃だろ」
「わかってねーなアレは長期戦用なんだよ」
「こんなとこで何してやがったてめェ…ヅラが他の兵士の手当て手伝えって怒って…」



相変わらずの銀時に呆れながら辺りを見渡すと、土で作った小さな山がいくつも並んでいた。



胡座の上に乗っている泥に塗れた銀時の両手を見て目を丸くした。







「………まさかこれ全部一人で」












――――――――弔ったのか。
















「…この辺にいた奴らだけな」


銀時はため息混じりに掠れた声で呟いた。









「………バカかてめェ」
「……――ったくホントによォ、」






少し俯き胡座の上に右手で頬杖をつく。




















「…何回送んなきゃなんねーんだよ」







語尾が震えて聞こえたのは自嘲気味に笑っていたせいだろうか。

















「大変なんだぜ?爪の中に泥入るわ」

馬鹿か。馬鹿だろう。お前が今どんな顔をしているか鏡で見せてやりたい。


「穴掘るのも結構筋肉使うんだって」

誤魔化せていると思っているのか。お前らしくもない。微かに寄った眉間の皺は無意識だろう。


「刀振り回すよりよっぽど筋肉痛になってよ」

胡座の上で握り締めている左手に腹が立つ。筋肉じゃないだろう、痛いのは。



俄には解り辛いが、これは滅多に見せないこの男の明確な、




















「……――ホント勘弁してほしーわ」






本音と渇望、だろう。




















血生臭い生ぬるい風が静寂を吹き抜ける。残骸が淡い炎に包まれて爆ぜる音が耳障りだ。一刻前は耳を塞ぎたくなるほどの砲弾の轟音と刀音が響いていたのが絵空事のようだ。












「……っんとにバカだなてめェは」

憐れみでも同情でもない。心の底から馬鹿だと思った。





おもむろに銀時の隣にしゃがみこむ高杉。そして地面に散らばっている木の枝を一本掴み、目の前の土の山に差した。








「てめェ一人で見送ってるわけじゃねェだろうが」



銀時が俯いた顔を僅かに上げたのを感じた。









「今度弔う時は俺達も呼びやがれ。てめェ一人で見送られちゃァよ」





高杉にしては珍しく棘のない声色で小さく、だがはっきりと言った。





「俺達ァ死んだ奴等に怨まれちまうぜ」





精一杯の皮肉。だがそれはまた精一杯の共感。







まだ少し俯いていた銀時が完全に顔を上げて高杉を見た。
土の山を見つめていた高杉だったが、珍しく動揺した銀時の視線に気づきニヤリと意地の悪い笑みを浮かべる。





「…間抜けなツラしてやがる」
「オメーが気持ち悪い声出すからだろバカヤロー」
「気持ち悪ィのはあいこだろ」
「一緒にしないでくれますぅ〜まず背の高さが…あでっ」


いつもの勢いはないが悪態をつき始めた銀時にアッパーカットを食らわす。







命は儚い。だが、重い。
お前一人じゃ荷が重すぎる。






殴られた顎を撫でながら睨んでくる銀時を無視して、高杉は立ち上がり口を開く。


「…心配しなくてもな」



立ち去りながらいつもの人相の悪い表情を浮かべて言った。







「てめェが死んだら俺達が見送ってやるよ、銀時ィ」














それを聞いた瞬間、銀時はこれでもかと言うほどに顔に皺を寄せた。

だが、すぐに生意気な顔をして皮肉たっぷりに返した。







「…てめーらに見送られるなんざ死んでも御免だ」















見送って見送って、いつか見送られる時も来るだろう。

でもどうか、まだ今は。









「…仕方ねー、今度は手伝わせてやるよ」




同じ重みを分かち合って。











澱み困頓として葛藤に苛まれていた心が軽くなったのを具現したように、漆黒の闇に朝日の光が射し込んだ。




















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これだけだ真面目にタイトルつけてるの笑
「ししてのちやむ」って読むみたいです。
これ一番時間かけて書いたかもしれない!
久石さんの「おくりびと」のテーマを聞いて
浮かんだ妄想^^^^
あれはほんと曲だけで泣ける;;

2009.4.12



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あきゅろす。
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