【切手のない封書】
朝ご飯


「まだ、高校生なんだって?」

「え?…あ、あぁ…っと。誰から聞いたんですか?」

「うん?モモさん。それより、夏休みにいいんですか、こんなところで油売ってて」

「夏休みに家にじっとしてるなら、油売ってた方がまだマシ。俺、家が嫌いなんで」



中学時代の先輩から斡旋を受け、バイトとして勤めることになったホストクラブ。
その店での勤務を終えて、俺は朝日が照らし始めた新宿の街を歩く。

デカい欠伸をしながら、俺は一軒の店を目指す。
そこは、バイト先の先輩から教えてもらった、早朝は軽食を出すバー。
この時間帯、くたびれた同業者や客…色んな奴らが集うこの店。
最近、朝帰りする時はここでメシを食ってから帰るのが、俺の定番になりつつある。

そんなある日、本来はバーテンらしき風体の男性が、カウンターでモーニングを注文した俺にコーヒーを出しながら話しかけてきたのは、あそこに入ってから10日程経った頃だった。


「しかしモモさんも、逆らうなぁ…。高校生雇うなんて」

「逆らう?」

「そう、世間に…というか、法律に?」

「あはは!確かに、そう言われればそうですね」


夜の街の法律なんて俺は良く知らないけれど…とりあえず、高校生をホストクラブに雇い入れた、なんて警察なんかが知ったら即刻あの店は潰されるんじゃなかろうか。

そんなリスクを背負ってまで、俺を雇い入れたモモさんは…本当に変わっていると思う。


「気をつけなよ。君、なんか危なそうだから」

「カツラギです」

「うん?」

「名前。キミじゃなくて、カツラギ。店には、ヨシツネで出てる」

「カツラギ ヨシツネ?なんだか凄いね」

「ダサかっこいいでしょ」


カウンターに並べられる、モーニング。

コーヒーとトーストとウインナーにサラダ。そこに、今日は一品多く…


「…牛乳?」

「育ち盛りに、カルシウム。ただでさえ、健康に劣悪環境にいるんだから」


サービス、とバーテンは少し表情を和らげ笑った。


「ガキ扱いですね」

「不良少年にはね」


バーテンは、尾形(オガタ)と名乗った。
歳は…30手前…ぐらいだろうか。


「モモさんにも、気をつけた方がいいですよ。あの人も、危なっかしいから」

「…あの人も、って何ですか。それに、気をつけろって言われてもなぁ」

「いつも頭の片隅に意識しているといい。歌舞伎町は、色んな意味で大人の街だから…」

「ははっ!何ですか、それ」


オガタさんは、ただ、笑った。









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あきゅろす。
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