【切手のない封書】
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昼時に恋人を家へ呼び出し、飯を一緒に食った後…それは訪れる。
今まで付き合ってきた奴らとは過ごしたことのないような、とてもとても平凡で静かな時間。
それに、俺はいつも落ち着かなくなる。
甘い空気、甘い時間、優しい温度。
そのどれにも堪え切れなくなって、ハルキにキスをする。
そのまま、リビングの床で…セックスに縺れ込む。
床にハルキの手で縫いとめられる腕、全身に当たるフローリングの硬い感触は、ベッドの上の柔らかな感覚とハルキの温かな膝の上とは違って、俺をただのネコにする。
やっかいだ。
恋人の背中に廻す掌した掌に感じるのは、俺が幾度となく刻みつけた
愛 という名の皮を被った、
独占欲 という名の傷跡。
その鎖のような傷跡を指で辿りながら、頭にふと浮かんだことがある。
こんな風に俺がただのネコになるのは、あの手紙のせいなんだろうか?
中身も読まずにコートに差し込んだ、あの手紙。
「…あと、2年か…」
「何がですか?」
「さんじゅー」
「30?」
「もう、じゅうぶんな筈だったんだけどな…」
「…?」
「ははっ、お前、アホな面してる」
「…えっ?あ、酷い…」
「あはは!…あ、ハルキ…おい、こら…」
「…ね、ヨシツネさん…もう一回。だめ…ですか?」
「…オガタに怒られるの、俺だってわかってるか?」
「俺も謝りますから…お願いします、もう…一回だけ…」
午後の少し赤味を帯びた日差しが、部屋に差し込む。
セックスの最中、他の事を考えていたのを見抜くようにハルキは俺を強く抱く。
そして、互いの熱を吐き出した今…そろそろ出勤の準備をしなければ店の開店に間に合わない時間が迫りつつあることをわかっていながら、ハルキは俺の唇をキスで塞ぐ。
「…んッ…は…」
「…ヨシツネさん…」
硬いフローリングの上、差し込む日差しが眩しくて目を眇める。
汗ばんだ素肌に感じる、精に汚れた床の感覚とハルキの再開を強請る声に、俺は頭の片隅でまたぼんやり手紙のことを考え始めていたのを止めた。
「…ッ…お前は、オガタの怖さを知らないから、そんなこと言えるんだよ…」
「はは、流石、オガタさんですね…ヨシツネさんも怖がる程だなんて…」
「あいつに言ってやれ、喜ぶから。…なぁ、ハルキ……」
「…?」
「好き」
「…どう、したんですか…」
「…俺が、お前に何も無く 好き って言うのは…変か?」
「いえ…嬉しいです…」
「…そう、よかった…」
「…ヨシツネさん。…愛してます…」
俺は、笑う。
そして、ハルキが一瞬だけ前にも見せたことのある、不安が混じる表情をしたのを…見逃さない。
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