【切手のない封書】
恋人


電話をしてから約一時間、インターフォンが鳴る。



『俺です、すみません遅くなって』

「いや、いい。それより、お前…なんでインターフォン?鍵は??」

『すみません…急いで出てきたから…』

「バカ、何慌ててるんだ」

『だって…あのっ…』

「何?」

『…あ、いえ…』

「早く来いよ」


エントランスのドアを開錠しようとした瞬間、インターフォンのTVモニターの前で何か言いかけて押し黙るハルキ。
俺の声は不満の色を見せない。
けれど、微かに部屋で眉根を寄せる。


ハルキの声が…どこか不安げだったから。


暫くして、玄関のチャイムが鳴る。
俺は、それが誰が鳴らした音なのかを確認もせずドアを開ける。


「おはようございます」

「あぁ、おはよう…って、お前、髪、ボサボサ」

「すみませッ…出勤前にはちゃんと!!」


インターフォンで顔を見た時には気付かなかったけれど、よく見るとハルキは正面はともかく後ろ髪が『寝起きです』と言わんばかりの乱れようだ。
俺からの呼び出しに慌てて家から出てきたようで、身嗜みに煩い俺の反応を窺うようにデカイ図体を少し竦めてこちらを見つめている。


「…次、気をつけろ。今日は見逃してやる」


いつだったか、友人の恋人がハルキを犬みたいだと言ったことがあったけれど…本当に時々そんな顔や素振りをする自分の恋人に思わず笑いが漏れた。


「で…ハルキ、飯はまだか?」


俺の笑う原因が掴めない様子で困惑の顔を浮かべつつ、あいつはポカンとした間抜け面をした。


「え、あ…はい」

「そう。ならボケっとつっ立ってないで中で座ってろ。…飯、一緒に食った方が美味いだろ」

「…あ、はいッ!!」


ハルキの表情が、みるみるうちに嬉しそうな顔になる。
成人したっていうのに、いまだにガキ臭い顔を見せるこいつの…こういう笑顔を見ると、ホストとしての先行きは少し不安になるが、人間らしくてとても安心する。




こいつみたいなのは、今まで、俺が付き合ってきたタイプにはいない。
そして、昔の俺ともまったくと言っていいほど違うタイプ。




自分の思うコトを押し黙る癖も、こんな風に好きな奴の言葉に一喜一憂する素直さも…昔の自分には無かった。
本当に、どうしてこんな風に振る舞えるのか。






…ふと、今朝の手紙の差出し人の事を思い出す。










もし、俺にこんな素直さがあったなら、俺は何か変わっていただろうか。










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あきゅろす。
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