【切手のない封書】
呼び鈴




この間、初めて男とヤった。



女の子からセックスに誘われることはあっても、同性から身体を求められたことは初めてだったし、誰かにベッドに組み敷かれるのも初めてのことだったけれど、誰かの肩越しに見える天井が嫌じゃないことに気付く。


…そう。


それが、男でも。









 ◆

 ◆

 ◆





モモさんにホテルに誘われたのは、歌舞伎町に彼と俺が付き合っているんじゃないか?なんていう面白半分の噂が流されてから数日後。




週の半ば、学校の昼休みに俺のPHSが鳴る。
画面が表示する名前を見て、一瞬、出るのを躊躇った。




−…ピッ…−


「もしもし?」

『おはよう、ヨシツネ』

「…モモさん…。どうしたんですか?」

『俺が、お前に電話するとマズい?』

「いや…そうじゃないけど…」

『なあ、ヨシツネ…今何処に居る』

「まだ、学校ですよ。平日ですもん」

『なあ、今から出てこいよ』

「出てこいって…モモさん、何処に居るんですか?」

『何処だと思う?』

「…何処だと思う?って…」



ため息混じりの言葉を吐きだしながら、教室の窓から外を眺めた。

暦は9月だと言うのに、まだ秋は遠いと言い張るような夏色の青空から降り注ぐ日差しが眩しい。
校舎の脇を走る大通りは、平日独特の慌ただしい車の流れと人の往来を作り出している。



いつもと変わらない景色の筈だった。


けれど、俺は見つけてしまった。
その往来の中に、彼の姿を。




気付いたら、鞄を持って教室を抜け出していた。




後ろから慌てて俺を引きとめるように呼ぶ友人の声に、ちゃんと返事はしただろうか?
わからないけれど、往来の中に居る電話の声の主を俺は追いかけていた。




この衝動が何なのか、さっぱり理解できない。




校舎の外、人波に混じる背中を追いかける。
彼は夜の街に溶け込む時のスーツ姿とは違う格好だったから、うっかりすると見失ってしまいそうだ。

信号待ちの人の群れに混じり立ち止まった、モモさんの腕を勢い任せに掴んだ俺に、彼は一瞬驚いたように肩を揺らした。
そして、ゆっくりと肩越しに振り返って微笑む。


「おかえり」


週末の、いつものあの柔らかな声と顔が、平日の俺の前にあった。
なんだか不思議な気分だ。


「行こうか」


信号が赤から青へ変わる。


「…何処へ?」


制服姿の俺とシンプルだけど品のある佇まいの服装をしたモモさんを、訝しげな目で横目に通り過ぎて行く人達の中、俺達は立ち止まったまま。






「ネコが爪を立ててくれる所へ…」












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