幸せって、なに?
「そのうちまた、飽きたフリして捨てるんですか?」
「ユゲちゃん、人聞き悪いな。子離れって言ってよ」
「子離れって…27歳の言う事ですか、それ」
「歳とか関係無いんじゃない?」
「まったく…まぁ、いいですけど。はい、この前頼まれた物件」
「お、サンキュー!」
昼間のホストクラブのカウンターで、資料に目を通す彼の顔は真剣だ。
そう、彼はいつも真剣なんだ、相手が彼の愛し方について行けなくなるだけで。
ホストクラブのオーナーであるヨシツネは、愛が重い、と相手にフラれるらしい。
幾人もの女に、一時の幸福と甘い愛を囁く彼は、自分が愛される事に飢えている。
昔、おふざけで一度だけ彼とキスしたことがある。
女を惑わす唇は、甘く、酷く切なげだった。
「…ちゃん、ね、ユゲちゃーん!」
「え?!あっ、はい。すいません、見惚れてました、オーナーに」
「あはは!相変わらずタラすねぇ」
「酷いな、そんなこと無いのに」
「今、可愛い子と付き合ってるんだって?ユウカちゃんがその子をめちゃめちゃ気に入ってたよ」
「あぁ、ご存知でしたか。山田さんには良くしてもらってるみたいで」
「ユウカちゃん、人見る目あるから。良いなぁ、幸せそ。俺も幸せ欲しいなぁ〜」
この部屋気に入った、と資料を戻しながら言う彼の目は、あの日の唇みたいにどこか切なげだ。
「欲しいなら…自分から捨てなきゃいいんですよ、与えるだけじゃなく求めればいい」
「…ちょっ、ユゲちゃん!!何その名言!」
「天才でしょ?じゃ、御契約頂けると言う事で。また後日伺いますね」
「ん、ありがと。ユゲちゃん、好きだよ」
「奇遇ですね、俺もです」
彼が俺に言う -好き- は友愛だ。
笑い合うように顔を眺めて、俺は店を出た。
紹介した部屋、そこが、前に俺を睨んでた少年と彼の本当の幸せの場所になればいいと思う。
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