Happy Happy Valentine!!
(アイリリー)






あまい あまい ひとときを あなたとともに。








お決まりの舞台、宿の広間。
デデン、という効果音がよく似合う勢いで、テーブルに置かれたそれら。
さぁどうぞ、と言わんばかりにふんぞり返っているのは、闇の大王もとい、食の魔王もとい、食料を兵器に変えてしまう技を持つ二人組、リフィルにアーチェ。
あぁ、辛い辛い。
とっさに捕まってしまったいつものメンバー(被害者)は、俺、チェスターにロイドとクラトス。
リッドは胃がおかしいのか、全く動じなくて、ジーニアスはリフィルの弟だからか、いつも見守る位置にいる。
姉貴を止めろよ!と言っても無駄なのは、とっくの昔に学習済みなわけで。
そんな昔から兵器を食わされてる(腹に仕込まれてる?)俺らも、いい加減慣れてもいい頃なのに、胃が拒絶反応を示すのは相変わらずなのです。
ちなみに、腹に一旦収めると丸一日は寝込む。
驚異の殺傷力ってやつ。
(害虫駆除にはもってこい?)
(そんなコト言ったら、二度と日の光を拝めないて思われるので言えない)

あまりの恐怖に現実から遠ざかりかけていたが、目の前のテーブルに置かれた元食料(現兵器)を食せ、と言うのが今回俺たちに課された使命らしい。
あぁ、怖い怖い。
いつもはデカく見えるクラトスが、やたら小さく見える。
あぁ、悲しい背中だ。

覚悟を決め、改めてこの物体を見る。
においは…苦い。
色は(所々黒いものがあるが)茶色。
固形物だが形はよくわからない。
申し訳ばかりか、愛らしいピンクのリボンが結ばれていた。
何だこれと思い、仁王立ちしているだろうアーチェを見ると、俺の目線に気づき、真っ赤になりながら「ぎっ…、義理だからね!」と言い放った。
義理?
ギリギリの間違いじゃなくて?(もうすでにアウトだと思うが)と考えてるうちにロイドが突然声を上げた。


「もしかしてこれ、チョコレート!?」


その驚きの声に、リフィルからゲンコツをもらっていたが、俺も正直驚いた。
チョコレートといえば、とろけるような甘さをもつ、可愛らしい菓子を連想するだろう。
しかしこれは固くて苦い。
食べてはいないが、視覚だけでそうわかる。
これチョコレートかぁ…。
ん?義理?ってことは。


「今日は世間でいうところのバレンタインデーよ。だから私たちから日頃の感謝の意味を込めて…ね」


少し恥じらいながら言うリフィルは大変可愛らしかったが、その気持ちがあるならやめてくれた方がありがたい。
きっと皆もそう思ってるはずだ。


「へぇ〜、サンキュ!じゃ、ありがたくいただくぜ」


…リッドがいた。
さも美味そうに食べるもんだから、今回こそはきちんとできたんでない!?と思ったことも数知れず。
決死の覚悟で口に含んだクラトスが後ろへ倒れたことで、今回もアウトだということがわかった。
クラトスの名を呼ぶロイドの声が涙声だった気持ちはよくわかる。
すごくわかる。
本当に泣いてしまいそうなところまで追い込まれたそのとき、救いの声がまっすぐ耳に入ってきた。


「私からもこれ。少し小さいけれど…」


か、カノンノー!!
先程とは違う意味で泣きそうになった。
神々しく光る後光さえ見えた気がした。
カノンノから手渡されたのは、透明な袋に赤いリボンというシンプルに飾られたハート型のチョコレート。
明るい茶色につやのある表面。
まさしくこれがチョコレートだった。


「カノンノ、本気で感謝するぜ」


心からそう伝えると、「どういたしまして」と愛らしい笑み付きで返された。
下から我を主張している(多分)チョコレートの存在さえ、なかったことのように感じられるありがたみがあった。
リッドはそれさえも普通にパクパク食べている。
クラトスは、その存在に気づく前に絶えた。
ロイドと俺だけが残されていた。
さてどうする。
カノンノからのチョコレートで中和することは果たしてできるのだろうか?
量的には五分なのだが、如何せんあちらには破壊力という名の攻撃がある。

散々悩んだ末に、成功率30%の答えが導き出された。
さぁ喰え喰え、と視線とオーラで催促してくる二人をじっと見上げ、武者震いが止まらない身体を抑えるように口を開いた。


「ふ、二人の気持ちはすっげぇ嬉しかったぜ。でも今は腹いっぱいで、せっかくのチョコレートを味わえねぇから、後でゆっくり食べてもいいか…?」


「一生懸命作ってくれたもんだから大切にしたいんだ」と付け加える。
言い訳らしい言い訳。
かなり嘘くさいがここは賭けだ!
隣でロイドが静かに抗議をしてきたが、やったもん勝ち。
悪いな。

最悪の結果も予想はしていたが、天は俺に手を差し伸べてくれたようだ。


「そう…それなら仕方ないわね」
「ほ、本当に義理なんだからね!」


それだけ言われると、俺は釈放された。
「それじゃ」と言い、扉を開け、自然に見えるよう外へ出た。
パタリと扉が閉まると同時に勢いよく駆け出し、宿が見えなくなるところまで逃げた。
これならすぐさま追われても捕まることはないだろう。
30%の確率で勝てたことに感動すら覚えた。




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