Happy happy Halloween!!
(チェスニ+ロイド+リッド+アーチェ)






朝夕ともに冷え始めたこの時期、静かな時間を過ごせるこの街≪アイリリー≫のとある一軒の家から、若者たちの笑い声が聞こえてきた。
隣家とは近からず遠からずの距離にあったので、日が落ちたこの時間帯でも、騒がしいが迷惑はかかっていなかった。
部屋の明かりは煌々と灯っており、甘いかおりが漂ってくる。さしずめ宴会、いやパーティーといったところだろう。

その楽しげな声の聞こえる家へ、一人の青年が小走りで向かっていた。


「あー、さみぃなぁ…」


後ろで一つに結われた水色の長髪をゆらし、寒さのために首を竦める。
厚手のコートを羽織ってはいたが、隙間から入り込んでくる冷気に身体は徐々に冷やされていっていた。
青年もパーティーは最初から参加する予定だったが、急遽ギルドマスターであるクラトスから「話がある」と言われ、そちらへ行っていたのである。
本来なら今頃は、暖かい部屋で皆と馬鹿騒ぎしていたのに…と、クラトスを恨みかけたが、仕事なので仕方ないと割り切っていた。

数分後、楽しげな声が聞こえる家に着いた。
そんな笑い声を聞くだけで寒さを感じなくなり、自然と頬が緩む。
冷えきって赤くなった手で扉をゆっくりと開け、中に入る。
木製の扉がギィ、と音をたてた。
冷たい水で手を洗い、うがいをし、思い出したようにコートを脱いで手に掛けたままリビングへと向かう。
この間も途絶えることのない笑い声が、次第に大きくなる。
ガチャリ。
扉を開けた。


「よぉ、おそかったなぁー」


ふわり。
甘いかおりとともに、暖かい空気が青年を迎えた。
間延びした紅髪の青年≪リッド≫の声が耳に入る。


「あぁ、思ってたより長引いちまってな」


テーブルを囲うのはリッド、ロイド、アーチェにニトという、同年代のお決まりのメンバー。
そのテーブルの上には数々の料理に、色とりどりのキャンディー。
そしてグラス、グラス……グラス。


「…お前ら、どれだけ飲んでんだよ」


数あるのは料理だけではなく、酒瓶もそうだった。
どこかの地方の言語が書かれてあるラベルがほとんどを占めている。
見る限り、そう強いものではないらしい。
苦笑を混ぜつつ、青年はコートを壁に掛けた。
ふと、フラフラとした足取りで、青年へと寄ってくる影があった。
それに気づいた青年が、そちらへ視線を向けると同時に、皆の視線も集中した。
その原因は彼にあるのではなく…


「おかえりなさい、チェスター」


青年に抱きついた、少女の突然の行動にあった。


「にににニト!!?////」


ほのかに香る、アルコール。
普段の彼女からは考えられないその行動に、完全に酔っているのだと、頬を染めつつ青年は思った。
当たり前かのように飛ぶ二つの野次を見事にスルーしつつ、青年は少女の頭を撫でようとしたのだが、ふと目に入ったものに動きを止められた。


「な、何だコレ…」


ふわふわとした桃色のものが、少女の頭の上に付いてある。
よく見るとそれは、カチューシャに付いていて、三角の形をしていた。


「なにって、ネコミミよー。てーばんのもえアイテムの!ほら、アタシたちもつけてんだからぁー」


アーチェのその声につられ、三人の頭を見ると、ヘアカラーと同色の三角が確かに付いていた。
しかしアーチェだけは黄色である。
本人いわく「ニトとかぶるからかえてやったのよ」らしい。


「お前のは鬼の角に見えて気づかなかったけどな」
「なんですってぇー!!!」


手元にあったキャンディーを掴み、ぶつけようとしてきたので、チェスターは未だ張り付いたままのニトを持ち上げ、逃げるように空いている席についた。


「ほい、おまえの」


ニトお手製というパンプキンパイを頬張りつつのリッドが、隣に座ったチェスターに渡したのは水色のネコミミ。
もちろん、彼のも用意されていたのであった。








明るい声が響く一軒の家に五匹の猫、もといネコミミをつけた五人の若者。
酒の力も手伝って、テンションは上がる一方であった。

テーブルの左側からリッド、チェスター、ニト、ロイド、アーチェ。
リッドはひたすら手と口を動かしている。
減っている料理はほぼ彼の胃袋に収められていた。
ニトはチェスターに寄り添ったまま、空いたグラスに酒を注いだり、料理を口へと運ぶ彼に「おいしい?」と尋ねたりしている。
チェスターはそんなニトを抱き寄せ、彼女の問いに「美味いぜ」と返答しつつ、空腹を満たしていた。
そんなラブラブっぷりを見せ付けられれば、その隣の二人はおもしろくないわけで、ボソボソと何かを話していた。


「ねぇ、ちょっとアンタ。となりなんだからなんとかしなさいよぉ!」
「そうだなぁ…。つーか、ニトのネコミミすっげーかわいいよなぁ」
「そうじゃなくて!ほら、なにかはなしかけるとか…」
「うーん…。俺に甘えてくれればもちっといいんだけどなぁ」
「だーかーらぁ!」


但し一方的であったが。
しかし、アーチェを悩ませていたロイドが突然行動に出た。


「そーだ。なぁニト!」
「なぁに、ロイド?」


トロンとしたニトの表情に笑みを深めたロイドは、次の言葉を発するべく口を開く。


「おかしくれねぇといたずらするぞぉ〜」
「はい、キャンディー」


このパーティーでのお決まりの台詞を言った途端に渡されたグリーンのキャンディー。
予想外の結果に、ロイドはもちろんアーチェまでも肩を落とした。


「じゃーニト、俺も"とりっくおあとりーと"?」
「お前まで何やってんだよ。つーか聞くなって…」

「じゃあリッドには二つね」
「やりぃ!」


おいおいおい。と、チェスターは酔っ払いたちの行動をヒヤヒヤしながら見ていた。


「はいはい!つぎアタシ!!ニト、おかしくれなきゃいたずらするわよぉ〜」


身を乗り出すようにして声を上げたのはアーチェ。
その顔には、にんまりと何かを思いついたような笑みを浮かべていた。


「えと…あら。もうキャンディー持ってないわ」
「んじゃ、いたずらけってーい♪(よしきた!!)」

「おい、殺すなよ!」
「そんなことしないわよ!!」


チェスターの大袈裟な心配(でも顔は本気)を抑えながら、ニトを引っ張り出し、皆と向かい合う形でテーブルの前に立たせる。


「それじゃー、アホチェスターのすきなとこいって」

「え」
「は!!?////」


驚きの声を出す二人を余所に、アーチェの作戦が実行された。

ふふふ…。
確かニトは一目惚れだったはず。
それならまずルックスはあるとして、他はなかなか思いつかないでしょ。
まぁ出ても三つくらい?
悩んでるとその分チェスターもイラついてきて…
『俺のことはその程度だったのかよ!』
『仕方ないでしょ。一目惚れだったんだから!』と、こんなムードになってさ。


「初めて会ったときに感じたわ。『あぁ、この人は人を大切に思っているんだわ』って。
カノンノはもちろん、全く知らない私に親切に接してくれたし、何より纏っているものが優しかったの。
それから何度か会っていくうちに、篤実なところや情に厚いところもみえてきて。それに…」

「や、やべぇ…すっげ恥ずかしい////」

「止まんねぇな…」
「ははっ、天然爆弾投下だっ」
「侮れないわね…っ(くそぉー!!)」


酒の力は凄まじい。ニトが喋り続ける中、他の四人はつくづくそう思うのだった。








「あーやべ、酔った…」


夜も更けてきた頃、騒ぎ声は治まり、ようやくリッドの食の手も止まってきた。
そんな中、酔いを自覚したのはチェスター。
持っていたグラスを置き、首を左右に振る。
リッドは元よりアルコールに強いのだろう、酔っている様子はなくまだ飲み続けている。
アーチェは目が据わっており、話はするものの…怖い。
ロイドはけらけらと意味もなく笑い続けて、完全に酔っていると見て取れた。
ニトはチェスターの肩に寄りかかったまま、すやすやと寝息を立てていた。
そんなニトの肩を、チェスターは彼女が倒れないよう抱き、ふと浮かんだ疑問を三人に投げかける。


「…なぁ。酒が入って、ニトすっげー甘えてたけど、俺が帰ってくる前もお前らに対してこうだったのか?」


普段なら決して言わない問いかけ。
それは、普段のニトならありえない姿を初めて曝け出し、それを見ていたのが自分以外の人間だったことに不安感を募らせているゆえであった。


「んな心配しなくてもさ、俺なんか、酔ってるとか全っ然思わなかったくらいたぜ」
「そうそう。はじめてのんだっていってたけど、アンタがかえってくるまでずーーっとフツーだったわよ」


急に酔いが回ったんでしょ、と続ける。
その二人の証言に、チェスターはほっと息を吐き、優しい表情で傍らで眠るニトを見た。
規則正しい寝息を身体で感じつつ、同時に嬉しさが込み上げてくるのも感じていた。


「でもさ、一杯飲んだ後、目ぇ潤んでたぜ」


リッドがふいに口を開いた。


「顔には出してなかったけど、いつもより明るかったし手も震えてた。あれ、酔ってたんだよな」


彼の観察力にあっけに取られた二人は、目をパチパチとさせていた。


「お前が帰ってくるまで、我慢してたんじゃねぇの?」


チェスターの肩を叩き、ははっと笑う。
そんなリッドを、チェスターは微妙な気持ちで見やる。
以前からこの二人の仲を怪しく思っていたからである(彼の誤解なのだが)。
チェスターの悩みに気づくわけもなく、ロイドは明るい声を発する。


「よくそんなとこまで気づいたなぁ。
もしかしてお前もニト好きなのか?それだったらお前もライバルだな!」
「うん、好きだぜ」


ははは、と冗談半分で言ったのだが、笑顔で即答したリッドにその場の時間が止まった。
流石に、凍りついた笑顔の三人に気づいた彼は、それでも明るい声で話す。


「勘違いすんなよー。俺はただ仲間としてってことだからな!」


この一言でようやく動き出す時間。
はははー、と笑い、一息つく三人。
こっちの天然も心臓に悪い、そう思った。








「俺の部屋に、ニト寝かしてくるわ」


よっこらせ、と眠るニトを抱き上げ、チェスターはリビングを出た。
その際「手伝おうか?」と声をかけたリッドを苦笑いで遠慮していた(まだ引きずっている)。
残った三人はちびちびと酒を飲んでいる。
ふと、壁掛け時計に目をやったアーチェがゆっくりと口を開いた。


「もうこんなじかんだし、アタシもとめてくれるわよねぇー」


そんな(半分命令口調な)発言に、ロイドとリッドは顔を見合わせる。


「なによぅ…」


それを不審に思ったアーチェは、グラスをテーブルにダンッと置き、二人を睨みつけた。
意を決してリッドが話す。


「ほら、さすがに俺らのベッド貸すわけにもいかねぇだろ?
この家、客室とかそんなもんねぇし…、他に寝るとこっつったらソファーくらいしかねぇんだよ。
それでもいいんだったら俺らは別にかまわねぇんだけど…」


女の子をソファーに寝かすなんて…とは思ったが、他に寝られる場所もないので仕方ない。
毛布くらいは用意できる、と言うと、アーチェはぐっと口を噤んだ。
ソファーで寝るか、寒い中家まで帰るか…。

しばらく悩んだ結果、一つの答えが浮かんできた。


「よし!アタシはニトとねる。これならもんくないでしょ!」
「へ?」


チェスターのベッドではあるが、女同士ならいいだろう、という結論だった。
そんな予想外の答えに、再び二人は顔を見合わせた。


「…まぁ、それは俺らが決めることじゃないしな……」


そこまで言うと、三人ははっとした。
ニトを寝かせに行ったきりチェスターが帰ってこない。
かれこれ三十分は経っているだろう…。


「ちょっ、ちょっと…み、見に行かない……?」


最初に口を開いたのはアーチェ。
心なしか目が泳いでいる。

「そーだなぁ。何やってんだろ?」
「何やってって…っ!」


純粋な疑問を持つリッドに、過剰に反応するロイド。
満場一致で、そろりそろりと目的の部屋に近づいていった。
先頭にアーチェ、次にロイド、そしてリッドが続く。
キィ、と小さく音を立て、部屋の扉をゆっくり開ける。
ベッド側のスツールに灯りが置かれていたが、そのわずかな明かりでは部屋の中はよく見えない。
しかし、ベッドの中で眠るニトと、その傍らでベッドに頭を伏せて寝息を立てているチェスターの姿は見ることができた。
三人は音をたてないよう、慎重にリビングへと戻り、顔を見合わせて静かに笑った。




ハッピーハロウィーン!






次の日。
やたらあたたかいな、と目を開けたチェスターは、声にならない叫びを上げた。
そして何故か目の前で眠っていたニトに驚き、ベッドから転がり落ちた。
いや、何故自分がベッドで寝ていたのか、だ。
(夜中に目を覚ましたニトが引っ張り込んだのだが、彼がそれを知るのはもう少し先の話である)
もしかして寝惚けて入ったのだろうか、と悩みつつ、その場にいられなくなりリビングへと出たが、その部屋の有様にも悩まされることになった。

(アーチェはテーブルに伏せて眠っており。ロイドとリッドは床に大の字を描いていびきをかいている。そして、想像以上に散らかっていたのだ)



今日はまだ始まったばかり。




fin...




back←→next
[戻る]


あきゅろす。
無料HPエムペ!