色とりどりの君はまるで魔術
(ウィダカイ)
「何をしている」
ギルガリム内の、とある場所に響く男の声。それには多大な不審さが含まれており、表情にも見てとれるほど表れていた。
そんな男の視線の先には一人の少年。膝丈のローブに身を包んだ深紅の髪を持つその少年は、杖を片手に何かを呟いていた。
男の問いかけに答えることもせず、瞳を閉じたままひたすら口を動かす。すると突然、少年の足下に紅色の光で形作られた数々の文字が浮かび上がってきた。それらは少年の言葉通りに並び、意味を持ちはじめる。
その文字の並びが見憶えのない型であることに気づいた男はしばらく経過を眺めていたのだが、少年は術を発動させることなく杖を下ろした。
そしてゆっくり瞼を開ける。
現れたエメラルドグリーンの瞳は、腕を組んだままの男を映す前に不機嫌なものに変わった。
「なんでちょうどよく来るかな」
詠唱中よりも幾分幼さが残る声で男を遠回しに非難する。
そんな少年に対し、男は唇に弧を描き腕を解いて脚を動かした。
「自らの術を編み出したのか」
「まぁね。まだちゃんと発動できないかもだけど」
そう言う少年の周りには、数枚の羊皮紙と厚い魔術本、インクの零れたペンが散乱していた。
書物となり残されてきた術を応用し、新しい魔術を考えていたのだ。
「それに初級術。中級以上はやっぱ難しいよ」
杖の先をコン、と地面につけて息を吐く。
しかしその表情は術の考案を心底楽しんでいるものであり、普段の姿からは読み取ることのできない、年相応のあどけなさを映し出していた。
男は少年の前まで歩くと、他には見せない優しい眼差しで少年を見た。
「大技になるほど造りが複雑になるからな。余程達者な者でなければ、そうそう出来るものではない」
眼下にある紅い頭をポンポンと撫で「初級でも大したものだ」と続ける。
そんな男の行動に、少年はくすぐったそうに笑った。
「…しかし、これではまるで親子ではないか」
頭を撫でる男と微笑む少年。そんな光景を親子にたとえ男がそう発したのも束の間、少年はにこりと微笑むと数歩後退した。
「せっかくだし、どんな術か見せてあげるよ」
男が返事をする間もなく杖を構える。
眼を閉じ気を集中させると、周囲のマナの流れが変わり僅かな風が生まれた。
『名も無き焔よ 我に刃向かわんとする者を滅する力となれ――』
先ほどと同じ、紅い光が文字を生み出し一つの型を作っていく。足下に浮かび上がったものと頭の中で組まれたものが一致したとき、具現化された炎が光の中からその姿を現した。そして少年の構えた杖の先端部に集中して渦を巻く。
最大の力が溜まった瞬間、少年が勢いよく眼を開きその名を口にした。
「ブレイズショット!!」
発動の鍵となる術名が発せられたと同時に、勢いよく炎の塊が杖から放たれる。
同系のファイアボールとは異なり、単発でスピードのあるそれは迷うことなく男目がけて直進していった。
「ぐああ!!」
突然のことに対処が遅れた男は、炎の塊をまともに受けてしまいその場に膝をつく。
一方術を放った張本人は、にこりと笑ったかと思うと氷のように冷たい目付きへと表情を変え、男を見下した。
「親子?ふざけるのも大概にしてよね」
聞くだけでも肝が冷えるような声でそう言い放つ。
しかし男もそんな反応には慣れているので、真っ黒になりながらもフッと笑い言葉を返す。
「あぁ、それはすまなかった。親子ではなくて恋び…」
「ショット!ショット!!ショットォォ!!!」
「ぐはぁああ!!!」
詠唱なしでの発動。
すでに術を我が物にしている証拠であった。
焦げ臭いにおいを放つ男をそのままに、少年はまたにこりと笑った。
「ごめんね。まだ慣れてないから暴発しちゃった」
fin...
‐‐‐‐‐
以前、お題(未達成)の一部として上げていたものを引っ張り出してきました。
カイは魔術の勉強をひっそりこっそりやっています。
みんなに披露するとかじゃなくて、一人で楽しんでいる趣味の域ですが。だからって隠しているわけでもありませんよ。
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