モルモが行く!〜終焉篇〜
(モルモ+アイリリー)




「こんにちはー」


何となく暇だったから、宿の扉を開けて中に入った。
誰か一人くらいはいるだろう、そう思ったのが間違いだった。このあとオイラは、この軽はずみな考えが引き起こした地獄を味わうことになる。


「あれ?何だこのにおい…」
「いらっしゃ〜い」

広間中に漂っている、何てたとえたらいいかわからないにおい。それに続いたのは何かを含んだ声。
…嫌な予感がする。
オイラの勘はよく当たるんだ。

声がした方へ向くとアーチェがいた。あとリフィルに……死体?
オイラみたいに勘が冴えてる人はもうわかったと思う。
アドリビトム男性陣が、微動だにせず倒れ込んでいた。

オイラの中の警鐘が壊れんばかりに音を放つ。
あぁ、駄目だ…。


「何青い顔してんのよ。ホラ、アンタも喰え」

命令口調になってるよ!
恐ろしい笑みを浮かべたまま、アーチェは逃げようとしたオイラをがしっと捕まえ、グロテスクな物体の前に座らせる。
……えと…これ、どちら製ですか?
白くて大きなお皿の上に、ライス?とチキン?とよくわからない茶色のドロドロしてる液体。たぶん…いや、きっとカレーライスなんだと思う(超曖昧)。
リフィルは(ロイドいわくの)遺跡モードだし、アーチェは睨みきかせてるし。本当に怖いよ…。
唯一難を逃れていたジーニアスが乾いた笑みを浮かべながら、脂汗ダラダラのオイラにそっと耳打ちをした。

「あとで胃薬買ってきてあげるから」
「って、それならこの二人を止めてふゴォ!!!」
「何だその反応は!!」

リフィルがいきなりアレを近づけてきた。
その強烈なにおいに勢いよく退くとリフィルに怒られた。いや、だって本当にそれは危険だって!
「こんなの、よく口に含めたね…」と、戦死(違)したみんなを見て呟くと、ジーニアスがまたそっと耳打ちしてくれた。

「震えながら口に近づけて、完全に中に入る前に倒れたんだよ」
「何コレ新型兵器!?っていうか、なんでこんなのができるの!?」

口内に入れずしてこの有様…。
本当に何だコレは。


「いい加減食べなさいよ。根性ないわね!」

いや、君たちはコレの恐怖を味わったことがないからそう言えるんだよ。
もしかしてオイラたちで楽しんでるのかな?そんな…オイラたちは仲間だろ!?

「ねぇ…もうこんなことやめようよ!リフィルも、アーチェも、仲間が死ぬとこなんて見たくないでしょ!?
オイラだって…こんなの、嫌だ!」

感極まって、涙まで出てきた。
あれ?オイラ何やってたんだっけ…。
あまりのにおいに持っていかれそうだった意識を取り戻したオイラは、はっとした。
リフィルとアーチェがぽかんとしていたのだ。
傷つけてしまったかもしれない。そうだ、二人だって好きで料理が苦手なんかじゃないんだ。
それなのにオイラは…


「そう、ね…」
「へ?」

突然リフィルが口を開いた。

「ごめんなさい…。もう少し勉強をしてから挑戦することにするわ」
「アタシも…調子に乗ってたみたい」
「へ?へ??」

二人とも、何だか反省してるみたい。どうやら自分たちの料理がどれだけの被害を呼ぶか、ようやく理解したようだ。
あれ…これでよかったの、か…な?
しょげる二人をよそに、宿の扉が音をたてて開いた。

「あー腹減ったぁ…お、ちょうどいいところに…いただき!」

目にもとまらぬ速さでオイラのいたところに座り、カレーライス?を頬張り始めたのはリッド。
そういや倒れてなかったな。

「なんでいなかったの?」と聞こうとしたとき、突然リッドがテーブルの上に伏せた。
え!!?あのリッドもとうとう!?
驚きに目を開いたのはリフィルとアーチェも同じ。オイラはあわててリッドの近くへ寄り、顔を覗き込んだ。
ん?何か言ってる…


「た、足りね…腹減ったぁ……」


な ん で す と !?

ジーニアスが宿の主人から分けてもらったミートパイを渡すと、リッドはまたガツガツと食べ始めた。
みんな、目が点になってる。


「えーと、リッド…?」

さすがにアーチェも声を掛けずにはいられなかったみたい。
嬉々としてご馳走を口に運ぶリッドの邪魔をしないように、控えめに聞いた。

「アンタ、何ともないの…?さっきのカレー食べて、さ」
「へ?別に何ともねぇけど。おかわりないのか?」

いやいやいや!
リッド、君の胃と腸と舌は特別なんだと思うよ!その証拠に、うしろの死体(違)の山を見ただろう!?
…って、あれ…?何だかまた嫌な予感が…


「フフフ…」
「うふふ…」


あ、あ、あぁ〜!!!
二人が復活しちゃったじゃないか!!
オイラはジーニアスのうしろに隠れ、震える身体を小さくした。

「やっぱアタシもなかなかイケるんじゃない!」
「そうだ!この調子で、もっと効率よく栄養を摂取する方法を考え出すぞ!」

やるぞー!と、ヤル気をみなぎらせて奥へと消えて行った二人を見送り、オイラはそっと涙をこぼした。


「リッド、君のせいだからな…」
「ふぇ?なにが…?」


世界が救われても、この街のアドリビトム男性陣(約三名)は救われることはない…そう思った。






モルモが行く!〜終焉篇〜終。








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主人公ズがいないコメディーも、新鮮で楽しかったです♪

過去拍手お礼文でした。



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あきゅろす。
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