水音。
(ウィダーシン)






――ピチャン…




薄暗い空間に、水の滴る音が響く。


テレジア、世界樹の麓。
その中心部に一人の男の姿があった。
男は白銀の長髪を、それに反した漆黒の服を身に纏っている。
そして背には、彼の世界のものであろう言語が刻まれたリング。
男のマナに反応して、僅かに発光していた。


男は一歩、太い根に近づく。
血のように紅い眼をすっと細め、大樹を見上げながら口を開いた。



「テレジアの世界樹よ…
お前の世界は既にギルガリムの手中にある。無駄な抵抗は止めて私にその身を委ねたらどうだ?」



返ってくる言葉など、勿論無い。
それでも男は続ける。



「己が生命を守りたいのは解る。私とてディセンダーなのだからな。
しかし、今のままでは長く保たないことくらい承知済みであろう。
徐々に朽ちていく生命を見て、お前は何を思う?直ぐ楽にしてやりたいとは思わんか?
世界を創った基として、潔く最期を迎えたらどうだ」




「全てが一つの、究極の生命体になるための土台になれるのだぞ。
願うならば、テレジアの生命たちも私の世界にて在ることを許そう。
お前にとってもマイナスとなる所はない。

…これでもまだ抵抗するというのか?」



サァァ…と、風が吹く。
それはあたかも世界樹の抵抗の表れのようで、男は銀を揺らしながら、ククッと喉を鳴らした。



「…答えは変わらん、か。
そうであるなら、私とてしつこく言うつもりはない。後々後悔するがいい。あの時、あの手を掴めばよかった、とな」



そこまで言うと、男は踵を返す。
ところが、二三歩歩くと、ふと思い出したように視線だけ大樹へと向けた。



「お前の生み出した、希望、とやら…


案外脆く出来ているのだな」



男はそれだけ言い残すと、フッと消えた。




後に残るのは、静寂のみ。





――ピチャン…





薄暗い空間に、水の滴る音が響いた。







fin...




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