Return!!(1) -8- まさか、お城の中に温泉があるなんて思いもしなかった。 わたしはミウチェさんによって、城内のどこかにある浴場に連れて行かれ、あれよあれよという間に着替えをさせられてしまったのである。 身体の汚れを落とし、温泉に浸かって出てくると、ミウチェさんが綺麗な白いワンピースを用意して待っていてくれた。 黄色のパンツとセットらしくて、着てみるとサイズはぴったりだった。 お花みたいな香りがする。 「わぁ、よく似合ってる!」 ミウチェさんがはしゃいだ。 「そ、そうですか……?」 「うんうん、少し丈が違うかと思ったんだけど、大丈夫そうね」 にこにことわたしの世話をしてくれるミウチェさん。 何だか申し訳ない気持ちになってくる。 「あの、ご迷惑かけてちゃってすみません……」 わたしが言うと、彼女はわたしの手を取った。 「いいのよ、気にしないで。困った時はお互い様じゃない。それに」 ミウチェさんが少しだけ表情を曇らせた。 「同年代の子って、ここにはあんまりいないから」 わたしの髪を梳きながら、ミウチェさんは続けた。 「私、あなたが悪い人じゃないって分かるの。だからエンリも連れてきたんだろうし」 エンリくんの名前が出てきたので、わたしは一瞬ドキッとした。 何故だろう? 少し、心拍数が上がったような。 「もし、行く宛に困ってるなら、ここに居て。……って、言っても、まずはお父様の許可をもらわなきゃいけないんだけど、ね?」 「ミウチェさん……」 わたしにも分かる。彼女がとてもいい人なんだってことが。 理屈じゃなくて、フィーリングが合うっていうか、勘みたいなものだ。 「ミウチェって呼んで?」 花のような笑顔。 「えっと、じゃあ、わたしも咲って」 ドレッサーの鏡面に映るお互いの顔を見て、微笑んだ。 何だろう、凄くホカホカする。 こんな場所に放り出されて本当に不安だったけど、少しだけホッとした。 正直、家に帰れるかどうかは分からないけど、こんなに親切な人と出会えたのは幸運だと思う。 前向きに、前向きに。 自分を励ます。 じゃないと、ただでさえ後ろ向きなわたしだから、家に戻れない、見知らぬ場所だって考えてばかりになっちゃいそうだ。 しばらくして、ミウチェちゃんが、わたしの髪を梳き終えた。 「さーて、これでよし、と!」 ミウチェちゃんはどことなく満足そう。 「エンリがびっくりするわ、きっと」 またドキッとする。 鏡の中のわたしは、温泉のせいか、頬っぺたが紅潮している。 「泥だらけで分からなかったけど、あなた肌がとても綺麗なのね。爪も」 「そ、そうかな……」 爪は手入れしてた。学校じゃあまり派手にはデコレーション出来ないから、透明のを塗ってるだけなんだけど。 「私なんかよりずっと姫らしいわ」 「お姫様?」 「さ、行きましょ」 腕をとられ、わたしは浴場を後にした。 [Back*][Next#] [戻る] |