誰かに聞いた怖い話
90話…後継ぎの思い
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『もう少し…だね』
病院長の息子は、先程の呟きよりも大きな声で、誰に尋ねるとも無く話し出しました
『ん?』
『いや…何でも無いよ…何でも…無いんだ』
そして私の疑問を打ち消すと、彼の病院の事を話し出したのです
『僕は物心のつく小さな子供の頃から…父さんや祖父の背中を見て育ったんだ…二人共いつも患者や、その家族の為に一生懸命働いていたから、僕はそんな二人を尊敬し、自分もそんな人生を歩んでみたいと思っていたんだ…でも……』
『そんな二人が、とても疲れて家に帰って来た時、二人の背中に何やら黒っぽい靄の様なモノを目撃した事が…幾度と無く有ったんだ…多分あれは…病院で不幸にも亡くなった人達の哀しい思いなのかも知れない…』
『僕はそんな人達を、一人でも多く救いた……』
砂粒や埃と一瞬に、真っ赤に燃え盛る火の粉をも宙高く舞い上げた旋風が、彼の言葉の一部を消し去り湖の彼方へと去って行きました
彼は一体、何て言ったのでしょうか?
その言葉は私には伝わらずに、旋風と共に消え去ったのです
『病院に残る思いって、怖くも有り…哀しくも有り…そして嬉しい思いも一杯有る筈なのに、何故なんだろうね?』
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