誰かに聞いた怖い話
・・・秘伝5
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『駄目だ…もう終わりだ…』
主人はもう一度小さく呟くと、小屋の片隅に隠して置いた小さな棒状の包みを取り出し、虚ろな眼をして小屋の外へと出て行ったのだった…
この時主人と道ですれ違った住人の話によると、何やら思いつめた様な表情をして、話し掛けられた事にすら全然気付かずに、ふらふらと歩いて行ったと言う…
そして主人が、夜になっても帰って来る事はなかった…
そんな主人の帰りを夜通し待ち続けた、彼の妻と一人息子の元にその知らせが届いたのは、太陽が天空に昇った頃だったのである
主人の亡骸が見つかったのは、町の外れにある小高い山の山頂付近でだった
彼はどんなに困窮しようとも、決して手放さなかった先祖伝来の小刀を用いて、自決していたのだ
その惨状は、目を覆うものだった
彼は頂上付近のなだらかな斜面に、日本の方角を向いて座り込み、その小刀を左腹に浅く突き立て、右腹に達する迄切り裂いていた
そして、己れの腹から溢れ落ちる内臓を鷲掴み、東の方角に向かって投げつけ…
最期に彼は…右の首筋に鋭利な刃を当て、一気に引き斬っていた
その惨状は、彼の底知れぬ無念さを感じさせ…見る者を震え上がらせたのだった…
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