誰かに聞いた怖い話
60話…羊頭狗肉10
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『そうなの…』

楽しい記憶を思い出し感慨に更ける夫を、彼女は少し憐れみを込めた悲しい眼で見つめていたのです



『あんなに旨いメンチやコロッケを作れるのに、何故急に店を閉めたんだろう?あんなに人気があったのにな…九州の片田舎に迄引っ越して、産地偽装なんかをしたんだろう…本当はこいつの言う様に、やって無いんじゃないの?マスコミの仕組んだ演らせとか…』

夫は私が恐怖したあの日から十数年経った今でも、未だに本当の事を何も知らなかったのでした

あの店で売られていた商品の中身には…

その味に纏わる悍ましい秘密には…何も気付いてはいなかったのです



でも…それは仕方の無い事だったのです

その悍ましき秘密を知る者は…彼女を含めても極限られた人数だったからでした





あの日の夕暮れ…薄暗い薄の原で漸くお手玉を見付けた私が、むくむくと膨らむその好奇心を抑え切れずに覗き込んだあの穴の中には、私を見つめる幾十…いえ、もしかしたらそれ以上あったのかも知れませんが…

もう何をされてもワンともキャンとも物言わぬ数え切れない程の瞳が、穴の縁から怖々と覗き込む私と、私の後ろに微かに瞬く一番星を見つめていたのでした

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あきゅろす。
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