誰かに聞いた怖い話
・・・羊頭狗肉8
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その少女は空き地で何があったのか、何も語ろうとはしませんでした

暗い夜道を母親に手を引かれながら歩いている時も、漸く家に帰り着き母親に空き地へ行った理由を尋ねられた時にも、少女は右手に薄汚れたお手玉をギュッと握り締めたまま…何一つ語ろうとはしなかったのです





少女が頑なな迄に喋らなかったその時の出来事について、初めて人に語ったのは長い時が経ってからの事でした

その頃少女は見違える様に成長し、縁あって結ばれた男性との間に一児をもうけていたのです



その日彼女は、東京オリンピックの開催以来急速に世間に広まり、既に神器の一つとは呼べなくなったテレビのニュースを、子供にお乳を与えながら眺めていたのでした



『!』

その時です!彼女の見つめる四角い箱の中には、見覚えのある…あの男の姿が映っていたのです

あれ以来…あの空き地での出来事以来…何度も悪夢で見続けた、でっぷりと太ったあの男が、画面からはみ出す様に映っていたのでした



画面に映るあの肉屋の店主は、汚物に群がる蝿の様に纏り付くリポーター達に対して、怒気も荒く己の潔白を主張して止まなかったのです



『こんな所に逃げていたなんて…』

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あきゅろす。
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