誰かに聞いた怖い話
・・・羊頭狗肉5
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肉屋の加工場の中からか、それとも加工場の隣りの空き地辺りから漂って来るのか、何か物の腐った様な…鼻につく嫌な臭いが、時より吹き付ける強い北風に乗って、この狭い路地の中に迄吹き込んで来たのです



暗くなり、陰りを見せ始めた辺り…



身体に染み付きそうな、強い腐臭…



それでも少女は誰かの助けを呼ぶ為に、声を張り上げる事が出来無かったのです



それは数日前、肉屋の従業員の目を盗んで空き地で遊んでいた時に、運悪く肉屋の主人に見つかってしまい、大きな肉切り包丁を頭上で振り翳した肉屋の主人に、しつこく追い掛け回された事があったからなのです

その時少女は、亡き祖母に作って貰った大事な形見のお手玉を、この空き地の何処かに落としてしまったのでした

少女はそれを見付け出そうと、友達にすら内緒で狭い路地に足を踏み入れたのです



けれども少女の着古した着物の裾や袂が、古くなり錆び付き至る所に頭を出した古釘に引っ掛かり、狭さと相俟って少女の行動を束縛していたのです



…何時迄も此のままではいられない…

漸く少女は、着物が破れ綻び母親に叱られる事をも覚悟して、右足を…前へと向かって踏み出したのでした

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