誰かに聞いた怖い話
91話…届かぬ思い
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『俺さぁ…さっき話したよな』
キャンプ場に吹き荒れる旋風の泣き声が、一瞬止まった静寂の闇の中、辺りに響くのは湖の岸辺に打ち寄せる波の音と、焚き火の中で燃え盛る薪のはぜる音だけでした
その一瞬の静寂の時を不意に破ったのは、車好きな彼の一言だったのです
『?』
でも、彼のその言葉は余りにも漠然としていて、そのさっきがどの事を指しているのか、私には分かりませんでした
『…俺と付き合っていた彼女の事さ』
『あっ!』
続けて呟いた彼の言葉に、私は思い出したのです
トンネルでの一件が原因で、彼と別れて故郷に帰ったと言う彼女の事を…
『俺さぁ…思うんだ』
『彼女とは、此の世ではもう二度と逢えない…そんな気がするんだ』
『何を馬鹿な事を言い出すんだよ…彼女の事を、ずっと待っててあげるんだろう?』
『彼女の事が好きなんだろう?』
私は彼に、そう尋ねる事しか出来なかったのです
『…』
でも…彼は黙って力無く首を横に振るばかりでした
…急にどうしたのだろう?
…あの話の時では、いつ迄も彼女の帰りを待つつもりだって、あんなにはっきりと言っていたのに…何故急に…
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