誰かに聞いた怖い話
・・・ビーチの夜6
.
俺が洗面所の側を通り過ぎ、男性用のトイレに入って直ぐの事でした

そのタイミングは、まるで俺の事を馬鹿にするかの様に…弄ぶ様に鳴ったり止まったりしたのです



俺は今にもその扉が開かれて、何か得体の知れないモノが入って来るのでは無いかと…恐怖におののいていました



そしてそんな恐怖に支配された俺の目の前で、男性用のトイレのドアが音も無く開かれたのです



『!』

その時の俺の口からは、悲鳴ともつかぬ短い声が漏れただけでした


俺はそこに、信じられないモノを見たのです



それは決して、此所では見られないモノでした



見られる筈が無いのです

そいつが此所に居る筈が無いのです



ぽかんと口を半ば開け、今尚半信半疑の面持ちの俺に向かって、そいつは話し掛けて来たのです



『おう、宿を抜け出して遊びに来たぞ』



『…』

俺は直ぐには、返答出来ませんでした

彼奴は自分の宿を抜け出して、俺の泊まる宿に忍び込んで来たのです

此の時の俺には、それがどんなに大変な事なのかが、まだ分かってはいませんでした

今となっては、それがどんなに無謀で…どんなに馬鹿げた事なのか…良く分かりますが…

[前頁へ][次頁へ]

18/95ページ

[戻る]


あきゅろす。
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!