誰かに聞いた怖い話
・・・ビーチの夜6
.
俺が洗面所の側を通り過ぎ、男性用のトイレに入って直ぐの事でした
そのタイミングは、まるで俺の事を馬鹿にするかの様に…弄ぶ様に鳴ったり止まったりしたのです
俺は今にもその扉が開かれて、何か得体の知れないモノが入って来るのでは無いかと…恐怖におののいていました
そしてそんな恐怖に支配された俺の目の前で、男性用のトイレのドアが音も無く開かれたのです
『!』
その時の俺の口からは、悲鳴ともつかぬ短い声が漏れただけでした
俺はそこに、信じられないモノを見たのです
それは決して、此所では見られないモノでした
見られる筈が無いのです
そいつが此所に居る筈が無いのです
ぽかんと口を半ば開け、今尚半信半疑の面持ちの俺に向かって、そいつは話し掛けて来たのです
『おう、宿を抜け出して遊びに来たぞ』
『…』
俺は直ぐには、返答出来ませんでした
彼奴は自分の宿を抜け出して、俺の泊まる宿に忍び込んで来たのです
此の時の俺には、それがどんなに大変な事なのかが、まだ分かってはいませんでした
今となっては、それがどんなに無謀で…どんなに馬鹿げた事なのか…良く分かりますが…
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