誰かに聞いた怖い話
・・・ビーチの夜5
.
遠く湖水を渡る風が泣いていました
その音色を断ち割る様に、サーファーの彼は続けたのです
『確かに音はしていたんだ…俺が洗面所に近付いて行った時には…蛇口から流れ落ちる水の音が…していたんだよ』
そして彼は、既に曖昧となった記憶を思い出すかの様に、ゆっくりと眼を閉じました
そして眼を瞑ったまま、話し続けたのです
…さっきの音って、間違いなく水道の音だったよな…
…でも、誰も…
…誰かの悪戯か…
…女子って事は無いよな…いや、でも…
俺が洗面所に近付いた時には、既にそこには誰の姿もありませんでした
勿論、どの蛇口からも…水が流れ落ちてはいなかったのです
…俺の聞き間違いか…
…そうだよな、現に誰も居ないんだし…
俺は心に芽生えた疑心と恐怖を振り払う様に、さも平気な表情を取り繕うのに必死だった
多分、そこに誰か居たならば、俺の痩せ我慢など一目で分かってしまうだろうに…
そして俺は、そのまま洗面所の前を通り過ぎ、隣りに在る男性用トイレのドアを押し開いたのです
…?
……!
やっぱり俺の空耳ではありませんでした
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