誰かに聞いた怖い話
・・・深夜の客5
.
…いや、違ったかな…



…まだ車を停めてって言わないのか…



…あっ!あーぁ…横道通り過ぎちゃったよ…



…だとすると…あぁ、あの家の娘かな…でも待てよ…確かあそこの家の子供は…



『…』



タクシーの運転手が、その娘の素性をあれこれと推察している間も、後部座席にちょこんと座った彼女は、ただの一言も喋りませんでした



『そろそろ着きますが…目的地は、本当にそこで良いんですか?』

そこで男は確認の為に、もう一度不思議な彼女に向かって問い掛けたのでした



同じでした…



彼女はただ黙って頷いたのです

ルームミラーを見つめる男の視線から逃れる様に、更に窓際に身体を預けて…



彼はルームミラーに手をやり、その映す位置をずらしたい衝動に駆られましたが、その衝動は何とか押さえる事が出来ました

その代わり彼の関心の的は、一瞬後部座席から別の物に移っていました



そしてその一瞬に起こったのです

彼の理解を越える出来事が…



『あっと!済みません』

タクシーの運転手は余所見をしていて、ゆっくりと右に曲がる道を真直ぐに進んでいたのです



勿論事故等は起こしませんでした

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