誰かに聞いた怖い話
・・・深夜の客3
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それは真っ暗な山の中程にぽつんとある、バスの停留所附近での事でした
タクシーのハンドルを握る彼は、その日山を越えた向こう側にある小さな温泉町へと、遠方から訪れた観光客を送り届けた帰りでした
その小さな町はその地より温泉が湧き出しているのでは無く、近くの温泉郷からパイプを使って延々と運んで来るのだった
その為なのか温泉町としては余り有名では無く、町の直ぐ近くにある大きな湖と綺麗な空気がその町の売りだったのだ
珍しく上機嫌だった彼は、遥か前方を横切る何者かの姿に気付いても、別段怪しむでも無くタクシーのスピードを落としたのでした
本来なら怪しむべき事なのでしたが、彼はその時は全然おかしいとは思わなかったそうです
『ん、あれは…?』
彼はアクセルを踏み込む足先の力を緩め、ハンドルをゆっくりと左に切りながら、バスの停留所に一人立ち尽くす白い洋服を身に着けた女性の前に、静かに車を停めたのです
そして彼は、助手席側のドアのウインドーを少し下げると、若い女性に向かってこう言ったそうです
『お嬢さん、こんな時間にどうしたの…バスはもう終わったよ…帰り道だから乗って行くかい』
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