誰かに聞いた怖い話
・・・疑惑から疑心へ14
.
『…』

彼の横顔を見つめた私は、彼の表情がいつに無く真剣な面持ちなのを感じ取り、口から出掛かった軽口を飲み込み、彼の真意を探ろうと問い掛けました



『…死んだら…か?』



『そう…死んだら…』

病院長の息子は煙草を地面に擦り付けて消すと、私の知らない誰かに聞いたその話を喋り出したのです



『君も知ってる通りに僕の家の稼業では…人の生き死には日常茶飯事なんだよ…この間迄入院していた患者が…次の日にはもう居なくなってるんだよ…その患者が居た病室には…昨日迄飾られていた患者の大好きな花も…見舞客の差し入れの品も…何もかもが無くなっているんだよ…ベットの上に綺麗に折り畳んである掛け布団は、糊の利いた別のカバーに代えられて…でも、そこには患者は居ないんだ…もう、彼女はそこには居ない…』



…彼女?

それは彼がふと洩らした本心だったのでしょうか?

彼は自分のその言葉にも気付かずに、話を続けたのです



『その患者がさ…僕に言うんだよ…人はさ…人の魂は、増えもせず減りもせずに常に一定なんだってさ…人口が増加しているのも、あっちでの魂のストックが減ってるだけだよって…だから…悲しまないでって…』

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あきゅろす。
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