誰かに聞いた怖い話
・・・疑惑から疑心へ13
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私にはその憐れな彼を、どうする事も出来ませんでした
いいえ…それがもし蜘蛛の仕掛けた罠に掛かったのが、辺り構わず鱗粉を撒き散らす醜い大きな蛾では無く、綺麗な羽根を持つ儚げなチョウチョだったなら…私はどうしていたのでしょうか?
私は彼女が物陰から姿を顕し、お尻から出す粘着質の糸を器用に使って、網に掛かった獲物をグルグル巻きにする様子を見たくなくって、慌てて視線を逸らしたのです
まるで今の自分の姿を見せられている様な、そんな気がして…
『ごめん…待たせたね…』
私はトイレの外で待っていてくれた、病院長の息子の元へと近付きました
『…』
その時彼は、トイレから程近い駐車場の柵に腰を掛け、何やら思案気な表情を顔に浮かべて、滅多に咥えぬ煙草を口にしていたのです
そして彼の咥えた煙草からは、薄紫色の煙りがゆらゆらと電灯の灯に照らし出され、ゆっくりと広がりながら消えてゆきました
その独特の匂いを、辺り一面に漂わせながら…
『どうした?何か悩み事かい?』
私はもう一度声を掛け、彼の隣りに腰を掛けたのです
『うーん…ねぇ、人間ってさ…死んだら何処に行くんだろう…』
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