誰かに聞いた怖い話
・・・疑惑から疑心へ3
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『いや、此のままじゃあ…やっぱりまずいだろ、風も強くなって来たし…誰かが火の番をしていないとね』
病院長の息子は、暗い夜空を見上げながら呟いたのです
『あぁ…そう言う事か…それじゃあ、先に行って来るよ』
『…』
『おい、どうした…行くよ』
私はその時、何故だかは良く分かりませんが、その場から動こうとはしませんでした
誰かに呼び止められている様な…おかしな感覚に捉えられていたのです
もっともその不思議な感覚は、私の身に何か危険を知らせる様な類いのモノでは無く、ただ此の場に止まり彼と…病院長の息子と無性に会話を交したい…いいえ、交さなくてはいけない…そう私の心に告げていたのです
例えそれが、単なる世間話だったとしても…
そして私の口からは、無意識の内にその言葉が突いて出たのです
『ごめん!私も後にするよ』
パチン!
その場には薪のはぜる小さな音と、暗い空を覆い尽くす雲と共に訪れた、風の奏でる笛の音しか聞こえませんでした
『…』
そして私は待っていました
彼が先に口を開くのを…
『ねぇ…君は大学を出たら…何をしたい?』
それは唐突な質問でした
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