誰かに聞いた怖い話
・・・百人浜8
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病院長の息子の言った言葉の意味を考えていた私は、旅行好きな彼の呟いた言葉の一部を聞き逃してしまったのです

その言葉は私にとっては重大な意味を持っていましたが、私がその言葉の意味を知るのはもう少し先の事でした…





そして彼の話は、未だ続いていました

あの直後に謝った彼を許した、私の目の前で…





北の大地とも思えぬ余りの蒸し暑さに、キャンピング・カーに備え付けられた堅いベットの上で何度目かの寝返りを打っていた彼は、その息苦しさに耐え切れずに締め切られた車内から表へと逃れ出たのです



彼がキャンピング・カーの扉の閉まる軽く頼り無い音を後ろ手に聞いた時、北の大地とは言えどもこの時期には珍しい一陣の冷たい風が、彼の纏った暑気の衣を引き剥がしながら吹き抜け、余りの寒さに彼は思わず首を縮めていたのです

しかし、それも瞬きする程のほんの一瞬の出来事で、次の瞬間には真逆に向きを変えた強い風が吹き戻し、キャンピング・カーの脇に佇む彼の身体を生暖かい空気ですっぽりと包み込み直していたのでした

けれども、彼を包み込む一種異様な妖気すら感じさせるその空気は、彼にとっては居心地の良いものでは無かったのです

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