誰かに聞いた怖い話
・・・百人浜4
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『…百人…浜か…』

病院長の息子は誰に聞かせるでも無く、小さな声で呟いたのでした

その時彼は焚き火の灯の届かない闇の中に、何か得体の知れないモノ達の発した微かな気配を、その全身で敏感に感じとっていたのかも知れません

その得体の知れない何かが、闇の中に蠢き私達の心の隙を窺っている…そんな事を心配するかの様に…多分彼は声を潜めたのだと思います



『それにな、あそこの浜では…強い東風が吹き荒び、泡立ち寄せる波と一緒になって、ごーっと獣が吠える様な海鳴りを発して押し寄せる日に波乗りすると、ボードを捉えた足首を誰かに掴まれてボードから引き摺り下ろされる…そんな体験をした人も多いそうなんだ』

『それに…その砂浜の一画には沼が在るんだが…出るんだよ』

サーファーの彼は、カップの底に僅かに残った焼酎割りを飲み干すと、燃え盛る焚き火の炎の中へ小さな薪を投げ入れました

そして彼が自分のカップにゆっくりと焼酎を注ぎ終える頃には、その小さな薪には既に炎が燃え移り…ちろちろと蛇が赤い舌を出す様に、真っ赤な炎がその薪を舐め尽くそうとしていたのです


私達はそんな彼をただ黙って待ったのです

彼が再び話し始める迄…

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