誰かに聞いた怖い話
・・・百人浜3
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『だけど…その時期…タイミングが悪かったんだ』



『時期?』

不意にサーファーの彼に尋ね掛けたのは、顔色も悪くなりめっきりと口数の減った車好きの彼でした



『あぁ!俺は皆の知っている様に、歴史は苦手で詳しくは説明出来ないんだけどな…奥羽諸藩から急遽掻き集められた侍達を乗せた船が、北の大地へと向かう途中で稀にみる大時化に遭い…奮闘虚しくあの岬の沖合で沈んだんだと…そしてその酷い嵐が鎮まり、雲間から差し込む光が延々と続く砂浜を照らし出した時には、ごーっと言う海鳴りと共に…まるで生き物の様に猛々しいうねりを伴った逆巻く荒波が、白く泡立ちながらいつも寄りも内陸へと切れ込んだ波打ち際へと打ち寄せ、無念の表情を浮かべた侍達の遺体が、船の残骸と覚しき木材や調度品の成れの果てに混じって…ぽつり、ぽつりと打ち上げられていたそうなんだ』



『だから百年以上経った現在でも、その砂浜に強い風が吹き付ける海が荒れた晩には、横波を受けて転覆した船と共に、目的も果たせぬまま暗い波間に沈んでいったその侍達の、この世に最期に残した呻き声とも叫び声ともつかぬ怨みの声が、その砂浜を吹き抜ける強い風に乗って聞こえて来るそうなんだ』

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あきゅろす。
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