誰かに聞いた怖い話
・・・羊頭狗肉11
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その何時もは愛くるしく感じる筈の、潤んだ瞳の数々が私の事を…

此の世の中で一番の友達だった筈の人間の姿を、瞬き一つせずに恨みがましく見つめているのを肌でひしひしと感じた私は、加工場の裏手へと…さっき通った路地へ逃げ込もうと、ぽっかりと口を開いた薄暗い穴の縁から後退りを始めたのです



けれども、私の歩みは僅か数歩で止まったのでした

大きな壁が私の退路を塞ぐ様に、私の後ろにそびえたっていたのです…

いいえ…それは壁等ではありませんでした

小さな私の退路を塞いでいたのは、あの男でした…四角い箱の中からこちらを覗き込んでいる、あの肉屋の店主だったのです



彼は右手に中身がたっぷりと入って重そうなバケツを提げ、左目より少し大きな右目に爛々と不気味な光を湛え、私の事を憎々しげに睨み付けていたのです

私は余りの恐怖に声を出す事すら忘れ、その場に立ち尽くしていたのですが、そんな私を見下ろしながら、あの男は憎々しげに呟いたのでした



『見たなぁ…』

そして男の左手が、まるでスローモーションの様にゆっくりと持ち上げられると、次の瞬間には私に向かって振り下ろされ…私は冷たく生臭い地面に倒れていたのです

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あきゅろす。
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