誰かに聞いた怖い話
・・・秘伝15
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最初に訪れた時、その男はアレの話には一切触れずに、当たり障りの無い世間話だけをして帰って行った

けれども俺は、そんなたわいの無い世間話の間にも、あの男の視線をひしひしと感じていたんだ

それはまるで爬虫類の…そう、鎌首をもたげた蛇が…赤い二股に分かれた舌を、チロチロと出し入れしながら、いけにえの蛙を無機質な丸い瞳で、ジッと見つめている…

そんな悍しい感覚を、俺は背中一面に感じていたんだ

あの男は、俺を見つめるその瞳の奥で、きっと俺の事を冷ややかに観察していたに違いない

俺が組みし易い男かどうか…俺から金を脅しとれるかどうかを…



だから俺は、頼りない弱々しい男を演じた…

アイツが俺の罠に嵌る様に…



あの味を、もう一度味わう為に…





これ以上は無い程の絶好のチャンスは、それから間も無く訪れた



その日は、朝から蒸し暑く…過ぎ行く夏を惜しむかの様に、油蝉の賑々しい鳴き声が街々にこだまして、暑さを更に酷いものにしていたんだ

そんなあの日、俺は朝早くからそわそわと、例の計画の準備を進めていた

俺の一人息子は、昨日から部活の合宿に出掛けていて、来週迄は戻らない…そう仕組んだのだ

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あきゅろす。
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