誰かに聞いた怖い話
・・・秘伝14
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その時親父は、にこにこ笑いながら、その男と談笑していただけだった

けれども、その男の眼も…親父の眼も、少しも笑っていなかったのだけは、記憶の片隅に残っていた

その後、男は親父一人の時を見計らって、度々店に顔を見せる様になり、俺は一度だけ親父が金を払うのを見たのだった

そして親父は、それから間も無く倒れたのだ

今にして思えば、全てが繋がるのだ…

親父は禁断のモノを使い、あの男はそれをネタに親父を脅迫していた

食糧難の刻とは言え、それは許されない事だった…例え人々が生きる為とは言っても…

けれども…親父の時とは時代が違っていた

きっとアレが、そう簡単には手に入らないだろう

そのままだったら、俺もあの味の再現は、諦めたかも知れなかった

けれどもそんなある日、アイツが現れたのだ…

あの男が、俺の目の前に…

俺は、親父の名誉を守る為に…



いや、違う…

あの禁断の料理を、もう一度自分で味わう為に、心を決めたのだった





『親爺…死んだんだってな』

あの男は店に顔を出すなり、にやにやと嫌な笑顔でそう言った

俺はその日から、準備を着々と…そして密かに始めたのだ

あの味の為に…

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