誰かに聞いた怖い話
・・・秘伝10
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彼が父親の残したぼろぼろの書きつけの束と、新しい一冊のノートを見つけたのは、ほんの偶然の出来事がきっかけだった



その日も彼は、週に一度の定休日を利用して、父親の作った料理の再現を試みていた

彼は、外がまだ暗い内から、スープの仕込みに入っていたのだ

この頃彼は、追い詰められていたのだ

彼が店主になってからというもの、料理の味が落ちたと徐々に客足も減っていったのだった

父親の急死で、彼に引き継がれる筈の料理の業の数々を、彼は受け継ぐ事が出来なかったからだ

仕方なく彼は、自分の得意な麺類だけにメニューを絞ってはみたものの、お客の入ったのは最初の内だけで、今では閑古鳥が鳴く程であった

このままでは、親父の残したこの店を、自分の代で閉めなくてはならない

彼は焦っていた…





『親父…』

その日の仕込みも失敗に終わり、彼は父親の部屋でやけ酒を呑みながら、愚痴を溢していた



『んっ?』

その時彼は、部屋の片隅に不自然に重ねられていた分厚い本に、初めて気付いたのだった

彼はこれまで、父親が読書をしている姿など、一度も見た事が無かった

そして彼は、無意識の内に手を伸ばしていたんだ…

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