誰かに聞いた怖い話
・・・秘伝9
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その男は、お客さんのそんな言葉を聞くのが、本当に大好きだった

日本を一度は捨てた自分だが、皆の役に立つ事を知るのが、嬉しかったのだ

お客さんの喜ぶ顔を見ている時の親爺さんの顔は、お客さん以上にいつもにこにこと笑っていた

そんな彼が時折暗い顔をして、一人で考え込んでいる姿を見掛けた者は、数える程しかいなかったのである

彼には、毎日気に掛けている事があった

それは、第二の故郷に残して来た養父の事であり、息子の嫁の事でもあった

けれども、男が大陸に残った二人に、再び出会う事は無かったのである

彼が、再び海を渡る事は…無かったからである





『駄目だ!何で親父みたいな味が出せないんだ!』

『確かにアレを使えば、親父の料理に似た味にはなる…でも、小さい頃に食べたアノ味には…』

『親父!何で死んじまったんだよ…俺はまだ親父に教えて貰いたい事が、沢山あったのに…』

月日は巡り、ある寒い夜に男は突然倒れると、一度も目を覚ます事なく還らぬ人となる

そして男の死後に跡をついだ息子は、どうしても父親の様な料理の味が出せずに、毎日悩み続けていた

そんなある日…息子は、父親の料理の秘密を知る事になる…

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