誰かに聞いた怖い話
・・・秘伝7
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男が日本へと帰って来たのは、間もなく戦争が終わろうとする頃だった
遥か昔に父と母と三人で渡った海を、男は戻って来たのだ
幼かった彼の頭にも、既に白いものがちらほらと目立ち始め…
彼の傍らには、父の凛々しい姿も母の微笑みすらも、既に無かったのである
彼の傍らに居たのは、みるみる内に近付きつつある山並みを、彼と並んで一緒に眺めている若い男と…その腕に抱かれて安心したのか、すやすやと寝息をたてている赤子だけだった
男の妻は数年前に大陸中を席巻した流行り病にかかり、発病から僅か三日で既に他界しており、息子の妻は男の養父の面倒を看る為に、男の養父と共に大陸に残ったのだ
日本との戦争が拡がり、養子として町で長年暮らして来た彼に対してすら風当たりが強まり、住人は関わり合いになるのを避けようとしていた
それ程迄に、事態は切迫していたのである
養父は、幼かった自分を店に雇い入れてくれて、色々と料理の腕を仕込んでくれた
母親との生活の面倒さえみてくれ、自分を娘婿として養子に迎え入れ、自分の料理店の後継ぎに迄してくれた
その養父すら残して国を出なければならない程、戦争は人々の心を変えてしまったのだった…
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