小説
ひとりじゃない、なんちゃって。
今日は、子供の日前日。
つまり、俺、折原臨也の誕生日。
俺自身は、誕生日なんてどうでもいいんだけど、普通の人間はやたらとこの日を祝いたがる。
別に、ひとつ年をとったからって、何が変わるわけでもないのに。
でも、今年は、ほんの少しだけど楽しみにしてた。
だって、付き合って初めての誕生日だからね。
シズちゃんが俺の誕生日を覚えてるとは思ってないけど。
忘れてる、だろうね。
『臨也、今日仕事でそっち行けねぇから。』
「ふうん。わかった。………シズちゃん、今日、」
『何だ?』
「何でもない。じゃあね。」
『ああ。』
案の定、忘れてるみたい。
ほんとは、シズちゃんに祝ってほしい…一緒に居てくれるだけでもいいのに。
でも、そんな事言えないから。
嫌われたくない。なんて。
前はそんなこと、思わなかったのに。
……いつの間にか、眠ってしまっていたみたいだ。
「…シズちゃん、」
知らず、出た名前にどうしてか泣きそうになった。
小さく息を吐いて感情を落ち着かせようとしてみたけれど、置きっぱなしの書類にぽつりと水滴が零れた。
………どうでもいい、はずなのにな。
誕生日なんて。
置いてあった携帯が震えて、着信を知らせる。
机の端に置いてあるから、今にも落ちそうだ。
……あ、落ちた。
拾い上げて着信履歴を確かめると、見覚えのある電話番号が限界の50件まで表示されていた。「何でこんなにかけてきてんの…」
呟くと、手の中の携帯がまた身震いして、着信を伝える。
「………もしもし?」
『臨也!?…』
一番、聞きたかった、声。
「シズ、ちゃん…。」
『…ごめんな。』
「え?なん…」
「『誕生日、おめでとう。』」
声は、2方向から同時に響いてきた。
「…っ!」
勢いよく振り返る、と、
ぎゅう、抱き締められた。
「シズちゃん…っ!」
その後のことは、二人だけの秘密。
でも、
一緒に過ごした。
それだけで、幸せ、だった。
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