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小説
俺と、あの子と、シズちゃん。 そのいち。
だいぶ続くと思います。
最後のほうは裏が入ると思うので、苦手な方は読まないことをお勧めします。

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二人はいつものように『殺し合い』をしていた。
いつもと同じように静雄が自販機を投げる。
いつもと同じように臨也が自販機を避ける。
いつもと全く同じ。
いつものように臨也が逃げ切ってしまう

―――はずだった。

静雄が振り回す標識を避けようとした臨也が、縁石につまづいてバランスを崩した。
そこに、トラックが、

すぐに静雄が動けば、助けられる距離だった。
それなのに、一瞬、ほんの一瞬、ためらってしまった。
いつも、『嫌い』なんて言っていたから。
伸ばした手は、ほんの少し届かずに。


音も、色も無い。

そんな中で、静雄はただ臨也を見ていた。
黒い服に包まれた白い体が、まるで作り物の人形のように跳ね上げられて、

あんなに軽かったのか、とどうでもいいようなことを考えた。

臨也の小さな体がアスファルトの上にふわりと落ちて、

白と黒だけだった世界に、赤い色が産まれた。

誰かが、叫んだ。



救急車のランプが、くるくると回っている。
静雄はそれをどこかうつろな表情で見つめていた。
すぐ隣でトムが警察と話していたけれど、静雄の耳には全く入ってこなかった。

少しふらふらとした足取りで救急車に近づこうとする。
と、側にいた警官が慌てたように止めに入った。
いつもの静雄なら簡単に振りほどけただろう。
けれども、今の静雄には出来なかった。
その代わりのように、小さく名前を呼んだ。
「いざ、や…」
その言葉は誰の耳にも届かずに消えていった。



「臨也は、まだ目が覚めないんだって。」
闇医者は、受話器を置いて独り言のように言った。
「そうか…」
「自分で行ってやればいいのに。臨也も喜ぶよ。」
少し皮肉混じりの臨也の言葉にも、静雄は力無く答えた。
「俺が行かない方が嬉しいだろうよ。あいつは。」
新羅は軽く苦笑した。
「君がそれでいいのなら、僕は別に構わないけど……。」
間髪入れずに静雄は答える。
「いいに決まってんだろ。俺はあんな奴嫌いだ。俺はあいつが大嫌いだ。」
大嫌いだ、と自己暗示をかけるように繰り返す静雄を見て、新羅は小さく呟いた。
「もう少し素直になればいいのに……まぁ、それが出来ないからこその2人なんだろうけど。」



静雄の携帯に連絡が入ったのは、それから三日後のことだった。
『もしもし、静雄?あのね、今連絡が来たんだけど、臨也が目を覚ましたって!』
静雄は思わず叫びそうになったが、押し殺すようにして低い声で尋ねた。
「臨也が?目を覚ました?本当か?」
『うん、そうなんだけどね…』
新羅はまだ何か言い掛けていたが、聞かずに静雄は電話を切った。



「臨也!」
病室の扉を引きちぎるかのような勢いで開けると、花のような香りがした。
隣の病室かと思ったが、意外にも、この病室に花が飾られていた。
「臨也?」
部屋を間違えてしまったのかと、問いかけるように名前を呼んだ静雄に、弱々しい声が掛けられた。
「あの、えっと、あなたは……、誰、ですか?」



新羅は、わざと静雄を怒らせようとしているのではないかと思うほど、ゆっくりと告げた。
「臨也は、記憶を、なくしちゃったみたいなんだ。………君のことも、自分のことも、……何もかも、全部。」
「……………」
重く沈んだ空気を吹き飛ばすように、新羅は、さて、と続けた。
「池袋って、臨也には結構危ないでしょ?」
「…何が言いたい。」
「いや、だからさ……」
珍しく言いにくそうにする新羅に嫌な予感を覚えたが、気のせいだろうか。


「あのさ、しばらく臨也と一緒に暮らしてくれないかな?」



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